ドSな御曹司は今夜も新妻だけを愛したい~子づくりは溺愛のあとで~
「私にそんな……言われる資格ないわ。母親らしいこと、なにもしてあげられていないのに……」
「お義母さん」

 嗚咽を漏らす彼女に、史悠さんが優しく呼びかける。

「私の家は酒蔵なのですが、父がよく言うんです。〝日本酒造りは子育てと似ている〟と」
「子育て……」
「ええ。ひとつひとつ個性の違う酒に、それぞれ手間暇をかけて向き合っていく。中身が出来上がったら、どんな装いで旅立たせるかを考える。確かに、わが子を送り出すようなものですね」

 彼の話は興味深くて、私も耳を傾ける。

「でもそこで終わりじゃない。飲んだ人がどんな感想を抱くか、どう改良すればさらにいいものができるか、ずっと観察していく必要がある。生みの親の大事な役目です」

 史悠さんも母を見つめ、わずかに微笑みかける。

「お義母さんも、これからは依都を見守っていてあげてください。母親らしいことをするのは、今からでも決して遅くはありません」

 暗い影を落としていた母の顔から、徐々に苦しみの色が消えていく。頬を濡らしたまま頷き、「……ありがとう」と紡いだ。

 和解なんてできないだろうと諦めていたのに、人の気持ちは本当に移ろいやすい。でも、今回は変われてよかった。

 私も史悠さんと出会えて優しくなれたのだ。心変わりは人の世の常でも、私が彼を愛する気持ちは絶対に揺らがない。



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