墜愛



履いてきたスニーカーに足を通す音。


爪先でトントン、として足を靴に収めると。


ガチャ、と玄関の扉を開けて、その後…


ガチャンと扉が閉まる。


鍵穴に鍵を差して回す音。


ドアノブを引いて鍵が閉まったかを確認する音。


スニーカーが立ち去る音。




そして…無音。




この瞬間が、いつも悲しい。



2人きりで会う度に、

期待感が膨らむのに、

彼が帰ってしまう時は、

シュルシュルと

あっけなく期待感が萎んでいく。



泥沼にハマっていくかの如く、

彼に夢中になって、振り回されている。



あんな女たらしに、夢中だなんて。


我ながら、バカだなと思う。




『行かないで。他の女のところになんか。』




そう言ってみる勇気が、私にはなかった。


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