捨てられ「無能」王女なのに冷酷皇帝が別れてくれません!~役立たずなので離婚を所望したはずが、気付けば溺愛が始まっていました~
 宵闇の中では、沿道に詰めかけたアレンディアの民の顔が分からない。

 大聖堂から皇宮へ向かう道を、フィリアはカイゼルと共に豪奢な正装馬車に乗ってゆっくりと走る。国旗や手を振る民にゆるりと振り返すカイゼルの手には、すでに手袋が嵌め直されていた。

 あの白手袋の下は過剰な魔力に侵されているのだと思うと、フィリアはつい大きな瞳で凝視してしまう。

 隣にかけたカイゼルの顔は窓の方を向いていたが、フィリアからの視線に気付いたのだろう。彼はこちらを見もせずに冷たく言い放った。

「俺の指は、気味が悪いか?」

「……っ」

 侮蔑を含んだ声で問われ、フィリアは怯む。そのせいで、返事が遅れてしまった。その間を肯定と受け取ったカイゼルは、冷や水を浴びせるように言う。

「石になりかけている化け物と結婚させられて気分が悪いか? 醜さに怖気づいたか。残念だが、これが君の運命だ。大人しく受け入れろ」

「……運、命……」

 フィリアの意思でないとはいえ、先にアレンディアを侵害したのは母国のヴィルヘイムだ。その代償を(あがな)うためなら、これが宿命だと受け入れられる。

 けれど、カイゼルは?

 彼は神聖力を持つフィリアに、過剰な魔力を浄化してもらい、結晶化を防ぐことを期待しているに違いない。

 凄まじい速さで目減りしていく命の砂時計を止めようと、無常な運命を阻止しようと、神聖力を持つ妻を望んだだろうに、このままじゃ……。

(魔力過多に侵されて死ぬのが陛下の運命なんて、そんなのおかしいわ)

 カイゼルの容貌は高名な彫刻家が手がけた彫像みたいだ。それくらい端正な彼は、動いていないと作り物めいた美しさがある。けれど、生きている。

 出会ったばかりの隣国の皇帝だろうと関係ない。よく知りもしない、愛のない相手だとしても、救えるはずの命を目の前で取りこぼすのは嫌だとフィリアは強く思った。

 だから、怖いけれど勇気を出し、緊張で狭まった喉をこじ開けて訴えたのだ。これがカイゼルのためになると信じて。

「カイゼル陛下、私と離婚してください」

 カイゼルの魔力過多は深刻だ。彼の命を長らえさせるには、自分ではなく神聖力の高い異母妹のレイラと結婚した方がいい。いや、きっとレイラは嫌がって断るだろうが、それならせめてフィリアよりも高い神聖力を持つ者を妻に娶って浄化してもらった方がいい。

 とにかく、自分ではダメなのだ。神聖力が低い自分ではカイゼルを救えない。

 そんな、彼の身を案じての発言だったが、結果はどうだろう。


「――――……君と別れるつもりは一切ない」


 凍てついた表情を浮かべたカイゼルからは、冒頭の台詞が返ってきたのだった。
< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:7

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop