アンハッピー・ウエディング〜後編〜
秋惜しむ頃の章4
なんて、ちょっと良い話風にまとめてみたけど。

そんなことが言えたのは、翌朝になるまでだった。

「ぐっ…!つ、ぅぅ…」

寝起き第一声から、鶏の首を絞めたような声でごめんな。

全身の。筋肉痛が。かつてないほどに。

思わず、喋り方がカタコトになってしまう。

ベッドから降りるどころか、上半身を起こすだけでも一苦労。

いつもの3倍くらい時間をかけて、のろのろと起き上がり。

さながら薄氷の上を歩くかのごとく、一歩一歩慎重に、軋む両脚を動かした。

あまりの痛みに、老人みたいに腰が曲がってる。

覚悟はしていたけど…予想以上だ。

そりゃ突然20キロも走らされたら、全身筋肉痛にもなるよ。

一瞬、学校サボってやろうかなという気になった。

「全身が筋肉痛で死にそうなんで、今日学校休みます!」って言ってやろうかと。

でも、さすがに…風邪を引いた訳でもないのに、筋肉痛で学校を休むってのはどうかと思った。

それに、なんか負けたような気分になるじゃないか。

筋肉痛で休みますなんて。情けないしさ。

そう思って、俺は気合いで起き上がり、気合いでキッチンに向かった。

今日も気合いでお弁当を作り、気合いで学校行ってやるよ。
 
戸棚からフライパンを出すだけでも、一苦労。

フライパンって、こんなに重かったっけ…?

…しかも。

「あー…。もう、何だよ…」

調理中に、突然スマホが鳴り始めた。

誰だよ。こんな朝っぱらから。

寿々花さんじゃないのは確かだな。あの人、俺のスマホの番号どころか家電の番号さえ覚束ないのに。

身体中痛いって時に、何だ。

仕方なくフライパンを置いて、ロボットみたいにカクカクした動きで、スマホを取りに行くと。

着信じゃなくて、メールが一通届いていた。

雛堂からである。

『件名∶筋肉痛
本文∶\(^o^)/オワタ』

…とのこと。

俺は思わず、速攻でメールをゴミ箱に削除。

オワタじゃねーんだよ。こんな下らないことで、いちいちメールしてくんな。

余計な労力を使ってしまった気分だ。

腹立ち紛れにスマホをソファにペッ、と投げ、俺はキッチンに戻った。

またしても、カクついた動きで。

…にしても、雛堂も筋肉痛か。

多分、男子部の生徒は今日、全員ロボットみたいな動きになってるだろうな。

いつもに比べて歩く速度が遅過ぎるから、早めに家を出ることにしよう。

あのクールビューティー体育教師…絶対に許さんからな。
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