アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「ねんがじょ…?」

相変わらず、きょとんと首を傾げるのがお上手。

「寿々花さんも年賀状、出すだろ?もう準備したか?」

あんたは多いだろう。無月院家のご令嬢という立場上。

軽く、俺の十倍くらいは…。

「…ねんがじょ、って何?」

「…マジかよ…」

まさかの0枚。

0に何かけても0だっつーの。

つーか、年賀状の存在そのものをご存知でないとは。

嘘だろ…。毎年どうしてたんだ。これまで。

「もらわなかったのか…?年賀状…」

「ねんがじょ?」

「年賀状。毎年年が明けたら、『新年あけましておめでとうございます』って手紙が来るだろ?」

寿々花さんのことだ。俺なんかとは比べ物にならないほどたくさんの人から…。

「お手紙…。私にお手紙をくれる人は、昔からお姉様だけだよ」

「…!」

「お姉様にはいつも、たくさんのお手紙が来るけど…。私には…」

と、小声で言って俯く寿々花さん。

…そうか。

それは…悪いことを聞いてしまったな。

…年賀状くらい、送ってやれっつーの。

あるいは、送られてたかもしれないけど…椿姫お嬢様との連名だったのかもな。

あくまで寿々花さんは、椿姫お嬢様のおまけ、ってか?馬鹿馬鹿しい。

そんな失礼極まりない奴らに、年賀状を送ってやる必要はない。

「悠理君は、お手紙を出すんだね」

「そうだな…。って言っても、親戚と小・中学校の知人だけで、今はろくに付き合ってない奴らばっかりだけどな」

「それでも、お手紙を出せる相手がいるのは幸せなことだよ」

…本当にな。

寿々花さんにも、そういう相手が…。

…あ、そうだ。

「じゃあ、寿々花さん。ちょっと手伝ってくれないか?」

「ふぇ?」

「年賀状作り。一人でやるの大変なんだ。寿々花さんが手伝ってくれたら助かる」

思いつきで、そう提案してみると。

「…!…うん、やる。お手伝いする」

何でもお手伝いしたい、おませなお年頃。

やっぱり、食いついてきたな。

「住所と宛て名は俺が書くから、裏面にメッセージを書くのを手伝ってくれ」

「うん、分かったー」

年賀状には、毎年似たようなメッセージを書くのがお決まりなのだが。

別に大したことは書いてないぞ。「あけましておめでとうございます。昨年は色々とお世話になりました。今年も宜しくお願いします」みたいな。

何処でも聞くような、ありきたりな新年の挨拶だ。

毎年同じことを書いてるような気がするよ。

「何て書けば良いの?」

「…えーと…それじゃ…。『新年あけましておめでとうございます。変わらずお元気にされてますか。お互い良い一年になりますように。今年もよろしくお願いします。』…みたいな感じで」

「悠理君、何処かの会社の社長さんみたいだね」

そ、そうか?堅苦しいか?

毎年こんな感じなんだけど。

こういうのって、つい当たり障りのないフレーズになりがちだよな。

上手い言葉が思いつかないんだよ。

「じゃあ、私が悠理君の代わりに書くね。みなさーん。私は悠理君ですよー」

と言いながら、寿々花さんは俺の代わりに、年賀状に挨拶を書き始めた。

いや、あんたは寿々花さんだから。

…まぁいっか。気を良くして書いてるんだし。

しばらく任せるとしよう。
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