アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「寿々花さん。お雑煮作ったんだけど…」

「おぞーに?」

「お雑煮知らないか?正月に食べる料理だよ。食べてみる?」

「うん、食べるー」

よし。

一応今回は、寿々花さんの嫌いな野菜は入れてないからな。

野菜嫌いの寿々花さんでも、食べられると思うぞ。

新年一発目の食事に嫌いなものが入ってたら、げんなりするだろ?

「お餅、焼いた方が良いか?煮た奴で良い?」

「悠理君と一緒が良い」

あ、そう。

じゃあ、我が家流のお雑煮になるけど、良いかな。

まぁ、試しに食べてみよう。

「はい、どうぞ。おまちどおさま」

「わーい。いただきまーす」

もぐもぐ、と実食。

「…どうだ?」

こんな貧乏臭い庶民の料理は、お嬢様である寿々花さんの口に合わないか…なんて。

「うん。美味しいー」

「良かった」

そんな心配は、やっぱり必要なかったようだな。

むしろこの人、庶民的な料理の方が口に合ってる気がする。

「悠理君、今年もご飯たくさん作ってくれる?」

「ん?そりゃあ…俺の役目だからな」

「じゃあ、今年も悠理君の美味しいご飯を食べられるのかー。嬉しいねー」

買い被りも甚だしい。

ただの手抜きな家庭料理だよ。俺のは。

「でも、悠理君ばかりに任せてたら駄目だね。今年こそ、私も料理上手になって、悠理君に美味しい手料理を…」

「いや、それは…遠慮しておくよ」

切実に遠慮しておくよ。

あんたは一生、インスタントラーメンのアレンジ料理だけ作ってくれ。

それ以外は俺がやるから。

「ふんふんふーん♪もういくつ寝なくても〜♪お正月ー♪」

楽しそうに歌ってらっしゃる。

すげー替え歌。元旦バージョンか?それ。

「嬉しそうだな」

「うん。だっておぞーにが美味しいし、昨日はとっても良い夢を見られたから」

へぇ?

俺が雪だるまに潰されてる間に、あんたはどんな良い夢を見てたんだ?

「寿々花さんの初夢か…どんな夢だった?」

「うんとね、悠理君と一緒に富士山に上って、飛んでる鷹を眺めながら、一緒に焼き芋食べてる夢だった」

最高の初夢じゃないか。

一富士二鷹三…いや、待て。

「何で焼き芋…?ナスビじゃねぇの?」

「ふぇ?だってナスビ嫌いなんだもん」

「あ、成程…」

でも、焼き芋でも充分だろ。ナスに形も色も似てるし。

羨ましい。

俺は生まれてこの方、初夢に富士山も鷹もナスビも、焼き芋でさえ出てきたことはないぞ。

今年なんて、雪だるまに潰されてたし。

「そうしたら、いきなり悠理君の頭に雪だるまがいっぱい落ちてきて、悠理君がぺちゃんこになっちゃって」

何だと?

それ、俺の初夢。

「わー大変、って思って助けてあげたんだー」

「…そりゃどうも、ご丁寧に…」

お陰で助かりましたよ。畜生。

まさか、二人の夢が連結しているとは。

…あれ?ってことは、雪だるまに潰される前に、俺も寿々花さんと一緒に富士山で焼き芋食ってる?

なーんだ、じゃあ俺の初夢も、覚えてないだけで、最高に縁起が良いってことじゃん。

…うん。そういうことにしておこう。
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