アンハッピー・ウエディング〜後編〜
再び春兆す頃の章2
俺が、この大きな「落とし穴」の存在に気づいたのは。
 
その週の週末。

そう、いよいよ今日、これから、チョコレート作りを始めようという時になってからである。

俺と寿々花さんは、互いにエプロンを身に着けてキッチンに入った。

「悠理君と一緒にキッチンに立つなんて、何だか新鮮だねー」

今日の寿々花さんは、朝からテンション高めである。

これから一緒にチョコ作りをするのが、楽しみで堪らないようだ。

寿々花さんが楽しそうで、それは何よりなんだけど…。

一方の俺は。

「…そうだな…」

キッチンに寿々花さんが立ってるってだけで、一抹の不安を覚えている。

今回は、お得意の…インスタントラーメンのアレンジ料理じゃないからな。

そりゃ不安にもなるってもんだ。

キッチン爆破だけはしてくれるなよ。頼むから。

そうならないよう、しっかり俺が監督しよう。

…それで。

「寿々花さん。レシピ本と材料は?ちゃんと用意してあるんだよな?」

寿々花さんが用意してくれるって言ったから、俺は何も用意してないぞ。

「あっ、忘れてたー」とか言われたらどうしよう。

その時は、まぁ…アレだ。

今からスーパーに走って、買ってくるなり。

あるいは手作りを諦めて、デパートに売ってるバレンタインチョコを買いに行くよ。潔くな。

しかし、その心配は必要なかったようで。

「大丈夫、ちゃんと用意してあるよ。ほら」

と言って寿々花さんは、大きな、重そうな段ボール箱をキッチンに運んできた。

いかにも重そうだから、咄嗟に俺が持とうと駆け寄ったが。

心配しなくても、寿々花さんは俺より力持ちなんだった。

手伝おうとしても、むしろ邪魔になるまである。

ごめんな。男なのに、寿々花さんより非力で。

しっかし、まぁ…。

「やけに大きな段ボールだな…」

そんなにたくさん材料、必要か?

一体、何をどれだけ作るつもりなんだ?

あ、それとも段ボール箱特有のアレか。

大した大きさの荷物じゃないのに、やけに大きな段ボール箱に入れて。

エアークッション剤をしこたま詰めて送ってくる、あのパターン。

宅配便あるあるじゃね?あれ。

過保護に守り過ぎだろ、っていつも思うけど。

すると。

「うん。材料とか道具とか、全部注文したからね」

と、寿々花さん。

…材料…は分かるけど、道具って?

チョコ作りに、そんな特別な道具が必要なのか?

てっきり、家にある道具で出来るものだとばかり…。

「じゃ、開けてみよっかー」

そう言って寿々花さんは、カッターを使って段ボール箱を開けた。

中を覗き込んで、俺は思わず、目が点になった。
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