アンハッピー・ウエディング〜後編〜
再び春兆す頃の章5
…などと、雛堂達と別れてから、母さんと電話で長話していたせいで。

つーか、俺が誤解させてしまったのを必死に弁明してたからなんだが。

買い物を終えて家に帰る頃には、すっかり辺りが暗くなってしまっていた。

夕飯のリクエスト聞こうと思ってたのに、それどころじゃなかったな。

人参とじゃがいもが安かったから、今日はカレー…か、ハヤシライスの二択だな。

「ただいまー。寿々花さん」

俺は自宅の扉を開けた。

…の、だが。

「…?」

いつもの、「お帰り」の返事がない。

それどころか、家の中がしんと静まり返っている。

…前もあったな。そんなこと。

もしかして、昼寝でもしてるのだろうか。

昼寝じゃなくて…正しくは夕寝、の時間になってるが。

それとも、あまりに長い間留守番させられてたから、不貞腐れてしまっているのだろうか。

「…寿々花さん…?」

リビングに向かったが、電気が消えていて、無人のようだ。

自分の部屋にいるのかな…。やっぱり寝ながら待って、 

「…って、うわっ!?」

自分でリビングの電気をつけて、そして仰天した。

リビングのソファに、寿々花さんが座っていたからである。

ソファの上で体育座りをして、例のキノコクッションを抱いて、ボーッとしていた。

びっ…びったぁ…。

心臓止まるかと思ったじゃないかよ。

「あ、あんた…居たのかよ…」

電気もつけずに…。居たのなら電気くらいつければ良いものを。

「大丈夫か?寿々花さん…。どうかしたのかよ?」

「…」

寿々花さんは返事がない…どころか。

こちらをちらりとも見ようとしない。

…?

「えっと…。今日、カレーかハヤシライスのどっちかにする予定なんだけど…。どっちが良い?」

「…」

「…??だいじょう…あっ、ごめんな。帰ってくるの遅くなって。ずっと待っててくれたんだよな?」

「…」

…どうしよう。マジで返事がない。 

謝ったのだが、まるで聞こえていないようだ。

な、何で…?

こんなこと初めてだ。

俺の声が聞こえてない訳じゃないだろう。いくらこの家のリビングが広いからって。

聞こえているはずなのに、寿々花さんは無反応。

どころか、こちらをちらりとも見ようとしない。

まるで、俺が居ないかのように。

こんな寿々花さんを見るのは初めてで、何?これ。もしかして怒ってる?

静かに怒りを燃やしてる?俺の帰りがあまりにも遅いから?

普段怒らない人が怒ると、めちゃくちゃ怖いとかいうあれ?あのパターン?

マジで?これ怒ってるのか…?

でも、表情は怒ってるって感じじゃなくて…。

…いつものぽやーん顔なんだよな。何だか…遠くを見つめているめ、って言うか…。

放心しているように見える。

…大丈夫なのか?本当に。

「え、えーっと…。寿々花さん…」

怒ってるにしてもそうじゃないにしても、返事くらいはしてくれないか。

「遅くなって悪…。あ、そうだみたらし団子…。お土産にみたらし団子買ってきたんだ。黒いけど…」

俺は少しでも寿々花さんの興味関心を惹こうと、買ってきたお土産のビニール袋を見せた。

勿論、テイクアウト用のビニール袋も真っ黒である。

見た目のインパクトは凄いけど、でも中身は美味しいぞ。

普通のみたらし団子と同じ…いや、普通のみたらし団子よりも美味しいくらい。

「寿々花さん、えっーと…」

「…」

「…みたらし団子、嫌いだっけ…?」

「…」

寿々花さんがあまりに無反応だから、俺も心配になってきた。
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