婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

33.追い込まれて(モブ視点)

「こんな田舎の屋敷に閉じ込められるなんて、正直信じられません」

 ガラルトとロナメアは、ザルパード子爵家の別荘に閉じ込められていた。
 人里から離れたその場所は、まず人が寄り付かない。そんな場所に閉じ込められることは、二人にとって屈辱的なことだった。

「まったくだ。父上は一体何を考えているのだか……よりにもよって、あのギルバートに家を継がせるなんて信じられない!」

 ガラルトは、妾の子が子爵家を継ぐという事実に未だに納得できていなかった。
 彼はずっと、自分が次期当主になると信じて疑っていなかった。そんな彼にとって、父の判断は意味がわからないものだったのだ。

「……仕方ないことではありませんか」
「……何?」
「別に妾の子だからといって、家を継げない訳ではありませんよ。血が流れているなら、貴族は当主に選びます。血は何よりも大事ですから」
「な、なんだと……」

 そこでガラルトは、驚くことになった。ロナメアが、自分に同意しなかったからである。
 今まで彼女は、ガラルトに従順だった。それが崩れたことも、彼にとっては信じられないことだったのだ。

「ロ、ロナメア。一体何を言っているんだ。妾の子だぞ? そんな存在が、子爵家を継いでいい訳がない。父上は間違っているんだ」
「……間違っているのは、ガラルト様の方ですよ。こんな所に閉じ込められたのも、もとはと言えば誰のせいか……」
「ぼ、僕のせいだというのか!」

 ロナメアに向かって、ガラルトは叫んだ。
 その叫びに対して、ロナメアは不機嫌そうにする。その態度がまた、ガラルトを苛立たせた。

「驚いたな! 君がまさかそんなことを言うなんて、信じられない裏切りだ!」
「駆け落ちをしようなんて言い出したのは、ガラルト様でしょう? その責任があなたにはあったんです! あんなボロボロの家に駆け落ちしようなんて、無理な話だったんですよ!」
「君も同意したじゃないか! わがままな女だ……君がそんな奴だとは思わなかったよ!」

 二人は、そこで初めて喧嘩をした。
 お互いに今までため込んでいたものが、辺境の別荘に追いやられたことによって溢れ出してきたのだ。
 しかし二人は、だんだんと落ち着いてきた。曲がりなりにも育んできた愛が、目の前の相手を許してもいいと思わせたのだ。

「……ごめんなさい。言い過ぎました。どうやら、色々あって気が滅入っているみたいです」
「いや、こちらの方こそすまなかった。とにかく僕達は、落ち着く必要があるだろう。とにかく紅茶でも飲もうじゃないか」

 先程まで湧き上がっていたはずの怒りは、一気に落ち着いていた。故に二人は、その怒りを今の環境のせいだと結論付けた。
 しかし二人の間には、確かな不和が生まれていたのだ。
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