バー・アンバー 第一巻

よし、俺が好き勝手を云ってやる

俺はボッタへの不安を打ち捨てて、またジャーナリストとしての本能をも敢えてふり払って、眼前のミキの内に潜んだ何者かと交わるべく、その為の言葉を頭の内でさぐった。「えー?本当?奢ってくれるの?嬉しいねえ。俺ってそんなに魅力あったかな」「ウフフ」とミキが妖しく笑う。「それにさ、帰るだなんて、とんでもないよ。夜通し朝までいたいくらさ。さっき君が憤慨して云った、男への不信と怒りを払拭させてやりたいね、俺は」と敢てハードボイルドティックに云う。再びの〝女を泣かせるような〟セリフを述べてミキの本質を誘おうとしたのだがミキは「えー?それこそ本当?ウフフ」と軽くいなす。しかしそう云いながら口元に運んだグラスを持つ手が小刻みに震えている。内心で未だに動揺しているのは明らかだ。本音を云いたいのだろうが盗聴装置だか何だか知らないが恐らくここの会話は筒抜けなのだ、誰かに。それで俺はミキの代わりにという分けではないが、ここら辺りがミキの本音だろうという話題を提供することにした。ミキが云うのでなければ俺が何を好き勝手なことを云おうとお構いあるまい…?
「本当も本当。必ず君を守っちゃう」
「ウフフ、守ってくれる?嬉しい」
「うん…それでさ、俺さっき自分がフリーライターと云ったけどさ、実は俺の専門は介護関係なんだ」
「介護?」
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