バー・アンバー 第一巻

最後の賭け

「ミキ、さっき君が云った〝俺の目が寂しそう〟というのは実は言い当て妙なんだ。正直云って俺には人間がわからない。人間の本当のところが。どうやったら他人と心底わかり合えるのかが…。だから表面の格好つけはともかく内心はとても寂しくてね。フフ。ただ、それを云って通じなかったら傷つくからね、とても。いつもは警戒しているんだよ、他人に対して。ところがそれをいきなり取っ払うような君の肌の提供に、その、驚いて…そして今君が見せている寂しさというか、悲しさというか、それに痛く共有感覚を抱いてさ…どうなんだい?ミキ。正直俺と同じものを君も心に抱いてるんじゃないの?違うかい?」
するといきなりミキが俺の手を取った。両手で俺の手を握り閉めながら堪えていた激情をほとばしらせるかのように一気に言葉をつらねた。賭けは成功だ。
「そう!そう!そうなの!田村さん…わたしは本当に寂しいのよ!そして怖いのよ!廻りは真っ暗っ!…何もありゃしないし、何も見えない。怖くって、寂しくって、悲しくって…それで堪えられなくなった時に、アイツからお誘いが来るのよ…」
この時にまたカウンターの下に置いてあるミキの携帯が鳴った。ハッと我に返り恐る恐る電話に出ようとするミキ、しかしそのミキの手から身を乗り出して俺は携帯を奪った。
「悪いな。いまお取り込み中だ。ミキは電話に出れない。代わりに俺がお相手するぜ。まず、あんた誰だ?…」なる問い掛けにしかし受話口の相手は無言のままだ。アイツだろうか?
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