バー・アンバー 第一巻

「待って。まだここに居て」

「だいじょうぶそうかい?アイツ」と訊いたあとで俺は「うーん、そうか…君の今の立場はよくわかるよ。い、いや、わかるような気がするよ。現世に肉体を持つ俺であってもね。まあとにかく、この人物の詮索は任せてくれ。次に君と会うまでには必ずつきとめておくから。それよりミキ、肝心なことだが、君がこの人物ショウ・ダイエイ(邵廼瑩)の身体に入るのは初めてのことかい?それとも今まで何回も入っていて、いま同様にこの世に現れているのかな?この人物は名前からすれば間違いなく中国人だと思うけど…」と始めの慮りはともかく後半はミキ同様に早口で尋ねる。表のママやアイツ、若い者の動きがいかにも気に掛かるからだ。ミキは「ええ、それは…」と云いかけたが急に両手を頭に掛けて苦悶し始めた。「どうした?だ、だいじょうか?ミキ…」両肩に手を掛けて揺するのに「はい、はい、わかりました。云わないから…で、でも、もうちょっとだけ待って。はい、すぐに」とばかり俺にではなくアイツに答えているようだ。「ああ」と忌々しそうにため息を吐いて何かをふり払うように頭をひとつ振ってから「田村さん、ダメよ。先生が…い、いえ、アイツが、もう待てないって。それに今の質問にも、そしてこれ以上の質問にもわたし、もう答えられないわ」と言明し俺の両手を除けた。さらに「わたし着替えるから…」と云ってドレスの両紐に手を掛ける。「そ、そうか。じゃ俺は…」そう云って外に出ようとするのに「待って。まだここに居て」と止める。ミキは両紐を外すとうしろに手をまわし背中のジッパーをおろした(野暮だが、ではさきほどのジッパー上げを依頼したのは何だったのか?)。ハイヒールを脱ぎ捨てて裸足になる。左右の腕を抜きドレスを下におろして両脚を交互に抜いた。今や赤いショーツ一枚きりの姿だ。
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