バー・アンバー 第一巻

ミキへの約束

それから身を引いて改めて彼女の顔に見入る。その頬には二筋の涙が流れていて悲しみの表情が、わかってくれた、わかり合えたとでも云うがごとくに喜びのそれへと変わっていた。俺はミキの両脇に手を入れてその肩を揺らしながら「ミキ、いいか。必ず君を救ってやるから。どんなことをしてでも必ずもう一度会って、君をあの世の暗い世界から、洞穴から引き出してあげるから。いいね、信じてくれるね?!」と自らの決心を伝えた。はい、はいと返事をするがごとくにミキが首を縦に揺らす。それを確認してから俺はミキのショーツを上まであげ「じゃ、服を着て。俺は表に返事をして時間をかせぐから」と云ってミキの身体をハンガーの方に向けさせ、その背中をやさしく押しやった。従順にミキが服を着始めるのを見やったあとで俺はドアに寄り「すまない。もうすぐだ。もうあと2、3分だ。ミキはすぐに出て行く」と云って表の気配をうかがった。そこには誰がいるのだろう。さきほどのノック音から判断すればママか若い者が激高して今や遅しと待ち構えているようには思われない。果して外から返事があった。「困りますよ、お客さん」また困りますだ、ママだ。「そんな所で乳繰り合われちゃ。特別料金をいただきますよ」と来た。決して険呑ではない。なぜだろうと怪しみながらも取り敢えずホッとして「ああ、分かった、分かった。勘定書を用意しといてくれ。おたくのミキは最高だ。いくらでも応分の料金は払うよ」と半ばマジで、半ばまさかボッタ料金を取りはすまいななどと危ぶみながら答える。するとほくそ笑む感じを丸出しにしながら「本当ですか?それならざっと30万円ほどを考えているんですけどねえ」と来やがった。一瞬ギョッとしたがそれはうしろから着替え終わったミキが俺の肩を叩いたせいでもある。ミキはニッと笑ってから「うそ、うそ。大丈夫よ。わたしにまかせて」と請け合った。
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