バー・アンバー 第一巻

午前2時の訪問者

大昔、若い頃に中東のアフガニスタンでハシシをやったことがある。始めてだったのでトリップしてしまい感性が次元の壁を越えて行くような、一種天国にいるような感覚がしたものである。それに近いだろうか?ハシシ、麻薬…ん?待てよ。あの時ミキの手が俺の髪をまさぐって…そしてチクリと。「ああ、そうか」と合点したところで俺の意識は失せた…。

 それからどれくらい経っただろうか?何かの拍子で突然目が覚めた。目が覚めはしたがいまだボーっとしていてなぜ目が覚めたのかすらわからない。壁時計を見ると針は2時を指している。当然午前2時だろう。「ちぇっ、寝込んじまったのか」と舌打ちしてやおらソファベッドから立ち上がり台所に行く。とりあえず迎え酒(迎えウイスキー?)を一杯やる為に冷蔵庫の氷を取り出そうとしたところで表からドアをノックする音が聞こえた。さすがの俺もギクリとする。え?ノック…?おいおい夜中の2時だぜ。いったい誰がこんな時間に訪ねて来たというんだ?全体まだ酔いが残っていてただの空耳なのかなとも思い、音を無視して冷蔵庫の氷を取り出したところでまたノックされた。空耳なんかじゃない。間違いなく誰かが訪ねて来て居、ドアの外に誰かがいるのだ。俺は「はい。ちょっと待って」と外に返事をし、取り出した氷を冷蔵庫に戻した。まさか件のヤクザ?と一瞬危惧したがまずあり得ないことだ。調べる気になれば俺の住所ぐらい容易に割り出せるだろうが事はまだそんなに切迫していない筈だ。俺のアップしたユーチューブへのコメント欄に何度か脅迫めいたことを言って来ているだけでそれ以外の具体的な脅しは一切ないのだ。いきなり、しかもこんな時間に訪ねて来よう筈もない。しかしそれならいったい誰?何者なのだろう。緊張するにつれて昨晩来の別の恐怖が襲い来もする。例の突然開けた霊視だった。まさか…ドアの外にとんでもないモノでも立って居はすまいな?おれは恐る恐るドアに近づいてドアスコープに目を当てた。するとそこにはノースリーブと思しき一人の女の姿があった。
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