バー・アンバー 第一巻

МAD博士への見参

徒歩で15分ほどでサマンサ・クリニックに着いた。虎ノ門駅に近いテナントビルの1階にあるクリニックだ。中に入ると10坪ほどの待合室があって奥のカウンターへと行く。20代半ばくらいの快活そうな女性がテキパキと感じよく受付をしてくれる。渡された初診受付用紙には「不眠症」と書いておく。これはまんざら嘘ではなく(それどころかシビアだった)昨日バー・アンバーでミキに云いかけたことだったが、ヤクザのチンピラと思しき輩がここしばらく俺に付きまとって離れないのだ。具体的に云えば団地5階の俺の部屋の真下に引っ越して来て、俺が寝ると下から棒で天井を叩く、あるいは部屋中に小型インバーターと思しき機械を持ち込んでは音を立てる等の悪さをずっとしていた。文句を云いに降りて行っても居留守を使う。ドア表札には何も名前が書かれておらず、管理会社に文句を入れれば「そこは空室だ」などと、いけしゃあしゃあと平気で嘘をつく。おっつけ俺のユーチューブ番組絡みの暴力団からの脅し…かも知れない。生活に甚だしく支障を来していて放ってはおけないのでいずれ対処をせねばならない。ところでそれがゆえの「不眠症」ならば精神科に来ても仕方ないのだが、もし万が一チンピラどもへのやらせ元がМAD博士であったなら、いま此処ほどそれへの対処場所として当を得たところはないのだ。親分に直談判をしに来たこととなる。さてどうなるか。今しも「田村さん」と診察室のドアが開いて看護婦が俺の名を呼んだ。
pagetop