バー・アンバー 第一巻

ほう…」と女医が身を寄せて来る

「はあ、その…ちょっと剣呑になるんですが、ここのところ反社と思われる連中に取りつかれてまして、それでそのう…それへの心配とかがあって…他にも…」
「他にも?」
「はい…」と返事してから俺はいっちょうここで昨晩見た(と云うか赴いた)夢を断片的にでも語ってやろうかと色気を出す。この〝女史〟野郎も一応は精神科医と云うのならユング心理学などへの見識はあるだろうし、それならせっかくこうして赴いて来たのだから、こちらも専門的立場からの分析なりを聞きたくもなったからだ。それに万が一、俺の話に興味を持ってくれて、俺に胸襟を開いてくれたらめっけものというものだ。МAD博士への道が開けるかも知れない。
「はい、実は昨晩何と云うか…強烈な悪夢を、い、いや、夢を見まして。それが教示夢と云うか、俺にとっては実に示唆に富んだものだったんです。ですからその、これへの夢判断と云うか、何某かのレクチャーをいただきたくて」
「夢判断?!」と女医がマスクの下で吹き出したようだ。うまいぞ。これは行けるかも…。
「いや、ははは。夢判断とは失言でした。申しわけない。その…実は昨日来不思議なことが俺の身に起きてまして、昨晩見た夢というのもその延長線上の…一種セレンディピティのように思えるんです。ひょっとしてこれはユング心理学で云う集合的無意識か、あるいはアカシックレコードにつながってしまったのではないか…などと思えるほどなんです」
「ほう…」と女医の身が乗り出し気味になる。案の定心理学上の専門用語を駆使してみればと思い立ったのが功を奏したようだ。
「そうですか。それならあなたはちょうどいい医者にかかりに来たかも知れないわよ。いや実はね私が大学で専攻していたのが心理臨床におけるユング心理学の応用なのよ」
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