バー・アンバー 第一巻

旧来の精神科には弊害がある

「です」言葉となり「あんた」が「あなた」となった。効果覿面だ。インタビューにおけるジャーナリストとしての俺の6つの指針(つまり虎の巻き)は昨日のミキとのやりとりで先に示したが、ここではそれ以外の〝霊界ジャーナリスト〟としての俺の感が働いた形だった。突っ慳貪きわまりない医者ではあったが何かしらМAD博士に通じる雰囲気をこの辺に、すなわちユング心理学辺りに感じたのだ。乗せるまでもなく女医が続ける。
「主体性、つまり〝私〟とはそもそも何かということね。今までは心理療法をする上でクライエントに対してこちらセラピスト側が社会の共通性を基盤として接して来た、どうかすると押し付けてさえ来た弊害と云うか、反省すべき点が旧来の精神科にはあったのよ。どうかするとそれがクライエントの発達障害を助長さえさせなかったかと…ね」
わかるかな?という目で医者が俺を見ている。ここで逸らしてしまっては止んなるかな、である。俺は意を受けるべく必死に頭を働かせて「なるほどですね。むしろクライエント側にもっと素直に寄り添おうと、無理に矯正をするのではなくクライエントの心の実態をまず知ろうということですね」などと口から出まかせ気味に云う。
「そうそうそう、そういうことよ。自閉症や統合失調症の患者にはハッキリと自他未分の兆候がある。そしてユング心理学では健常者の当たり前である自我よりも無意識の方に、つまり自他未分と思われる、超自我サイドに重きを置いている分け。だから…」
「だから、未だ自閉や精神分裂には至っていないだろう俺のような…つまり健常者から集合的無意識への手がかりでも得られたら目っけものだと…」
女医がマスクの下でまた吹き出した。
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