クールなイケメン俳優『如月 翔』のオンオフ生活
第一話*出会いと日常
『今日のゲストは、誰も寄せつけないクールさで世間を惑わすイケメン人気俳優、如月 翔さんです』
「こんにちは、如月 翔です」
私は毎日朝イチに飲むホットなコーヒーを飲みながらテレビ番組を眺めていた。
私の彼が、今夜から始まるドラマの番宣で朝からニュース番組や、ワイドショーに生出演している。一日電波ジャック。ちなみに彼は主に悪役や、ヒーローのライバル役を中心に活躍している。
世間から見た彼は、とにかくブラックなイメージに包まれている。
画面に映っただけで彼からはブラックなオーラが漂う。
だけど私の前で彼は――。
***
真っ白いシーツがこすれる音がして、私は目が覚めた。
「あっ、翔くん。おはよ」
「あ、ごめん。萌ちゃん起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ! 翔くん、起きるの早いね。昨日は番宣お疲れ様!」
一緒のベットで寝ていた私の彼、翔くんが起き上がり布団から出ようとしていた。
「今日は久しぶりのオフだし、萌ちゃんと過ごせるの楽しみで早起きしちゃった」
くしゃっとした笑顔で彼はそう言った。
この笑顔はクールなイメージで売っているため、公共の場ではNGだ。
そう、その笑顔は私が独占している。
私にだけ独占配信してくれるその笑顔は、毎回頭の中で丁寧に録画されている。
オンの時はおでこを出し、クールなイメージを際立たせる彼の髪型。けれどオフの日は、何もセットされていなくて、黒い髪の毛がふわっとしていて、前髪もおろされていて、可愛らしいホワイトエンジェル。
「さて、今日もケーキを作ろっかな!」
実は彼、ケーキが大好きで作るのも上手。彼がケーキ好きだったお陰で今こうして一緒に過ごせている。
***
私が彼と付き合ったきっかけは、ハマった映画のロケ地を巡る『聖地巡礼』の最中だった。
ひとりで地図を見ながら順番に映画のロケ地をまわっていた。映画の中で主人公たちが結ばれた重要な場所が分からなくなって迷子になりかけた時だった。
並木通りを歩いていると、一本道の向こうから彼が歩いてきた。キャップを深くかぶりマスクもしていたけれど『如月 翔』だと、ひとめで分かった。
「如月 翔さんですよね?」
私は単刀直入に訊いた。
「あ、はい。そうですけど……」
やっぱり!
ひと目で分かったのは、私は彼のファンだったから。今ロケ地巡りをしている映画も、彼が出演していたからチェックして、それからどハマりした。
ふと彼が持っている紙袋に目がいった。
白くてシンプルな紙袋に茶色の文字で『セ トレボン 』と書いてあり、文字の横にケーキのイラストが。
「それって、映画でヒロインと一緒に入ったケーキ屋さんのお店……」
「あ、映画観てくれたの? ありがとう!」
その映画では、彼は主人公の恋のライバル役で、結局彼は恋に敗れる。けれど一瞬だけヒロインといい感じになり、ヒロインとデートしたシーンの場所だ。
「はい、観ました。実はその映画の、主役たちが結ばれた場所への道が分からなくて……」
適当にあしらわれると思っていたけれど、イメージとは正反対でなんと気さくに接してくれて、通り道だからと途中まで道案内までしてくれた。
その時はそれだけだったけれど、なんと後日、仕事帰りに寄ったケーキが美味しいと話題のお店で彼と再び会ったのだ。それから意気投合し、あれやこれや色々あったけれど、付き合うことになった。
付き合い始めたのは、二年前。
私が二十九歳、彼が二十五歳の時だった。
ベージュのソファーに座りながら雑誌を開いた。
『プライベートでは自分から甘えたりはしない、絶対に』と書かれた文章と共に髪をかきあげながら顎をクイッと上げ、読者を見下ろす感じの彼の写真が載っているページを眺めていた。
雑誌の中の彼、本当に誰も寄せつけない雰囲気だしてるなぁ。
今目の前にいるリアルの彼をチラ見した。
彼と半同棲している状態の、今私が住んでいるマンションは1LDK。対面キッチンだからケーキを作っている彼の顔がはっきりと見える。
微笑みながら作っていて楽しそうだ。
みんな寄ってきそうだなぁ。
少し経つと、オーブンレンジの音がチンとした。ケーキのスポンジが焼けたらしい。食欲をそそる匂いが部屋全体に充満している。
「今スポンジ冷ましてるから、そしたら生クリームとイチゴを乗せて……」と言いながら彼が私の横に座り、甘えてくるように肩に優しくよりかかってきた。
「雑誌の言葉と正反対のことしてるね」
白いソファテーブルに置いてある雑誌に視線をやると、彼の視線もついてきた。
さっきまで読んでいた彼が載っている雑誌。
「あぁ、でも甘えるのは、萌ちゃんだけだから」
そう言いながら彼は上目遣いで私の顔をじっと見てきた。
彼が出演していた番組の録画。それを一緒に眺めていると「そろそろスポンジ冷めてきたかな」と彼は立ち上がった。私もなんとなくついて行く。すでに泡立ててあった生クリームをスポンジに乗せ、イチゴも飾り付けてケーキは完成した。ものすごく手際がよくて綺麗に飾り付けていた。
ソファテーブルの上にケーキを置き、ふたり並んで座ると彼がケーキを切り分けた。
「いただきます!」
ケーキを頬張った彼は満面な笑みを見せてくれた。
ケーキが似合う、ホワイトエンジェル。
表ではすごくクールなイメージの彼。
私だけが知っている、彼の甘い姿。
私は美味しそうにケーキを食べている、彼を見つめた。
こんなにも素敵な彼。
この先、私たちはどうなるのだろう。
ずっとこれからも、翔くんの幸せそうな姿を、一番近くで見続けていたいな――。
「こんにちは、如月 翔です」
私は毎日朝イチに飲むホットなコーヒーを飲みながらテレビ番組を眺めていた。
私の彼が、今夜から始まるドラマの番宣で朝からニュース番組や、ワイドショーに生出演している。一日電波ジャック。ちなみに彼は主に悪役や、ヒーローのライバル役を中心に活躍している。
世間から見た彼は、とにかくブラックなイメージに包まれている。
画面に映っただけで彼からはブラックなオーラが漂う。
だけど私の前で彼は――。
***
真っ白いシーツがこすれる音がして、私は目が覚めた。
「あっ、翔くん。おはよ」
「あ、ごめん。萌ちゃん起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ! 翔くん、起きるの早いね。昨日は番宣お疲れ様!」
一緒のベットで寝ていた私の彼、翔くんが起き上がり布団から出ようとしていた。
「今日は久しぶりのオフだし、萌ちゃんと過ごせるの楽しみで早起きしちゃった」
くしゃっとした笑顔で彼はそう言った。
この笑顔はクールなイメージで売っているため、公共の場ではNGだ。
そう、その笑顔は私が独占している。
私にだけ独占配信してくれるその笑顔は、毎回頭の中で丁寧に録画されている。
オンの時はおでこを出し、クールなイメージを際立たせる彼の髪型。けれどオフの日は、何もセットされていなくて、黒い髪の毛がふわっとしていて、前髪もおろされていて、可愛らしいホワイトエンジェル。
「さて、今日もケーキを作ろっかな!」
実は彼、ケーキが大好きで作るのも上手。彼がケーキ好きだったお陰で今こうして一緒に過ごせている。
***
私が彼と付き合ったきっかけは、ハマった映画のロケ地を巡る『聖地巡礼』の最中だった。
ひとりで地図を見ながら順番に映画のロケ地をまわっていた。映画の中で主人公たちが結ばれた重要な場所が分からなくなって迷子になりかけた時だった。
並木通りを歩いていると、一本道の向こうから彼が歩いてきた。キャップを深くかぶりマスクもしていたけれど『如月 翔』だと、ひとめで分かった。
「如月 翔さんですよね?」
私は単刀直入に訊いた。
「あ、はい。そうですけど……」
やっぱり!
ひと目で分かったのは、私は彼のファンだったから。今ロケ地巡りをしている映画も、彼が出演していたからチェックして、それからどハマりした。
ふと彼が持っている紙袋に目がいった。
白くてシンプルな紙袋に茶色の文字で『セ トレボン 』と書いてあり、文字の横にケーキのイラストが。
「それって、映画でヒロインと一緒に入ったケーキ屋さんのお店……」
「あ、映画観てくれたの? ありがとう!」
その映画では、彼は主人公の恋のライバル役で、結局彼は恋に敗れる。けれど一瞬だけヒロインといい感じになり、ヒロインとデートしたシーンの場所だ。
「はい、観ました。実はその映画の、主役たちが結ばれた場所への道が分からなくて……」
適当にあしらわれると思っていたけれど、イメージとは正反対でなんと気さくに接してくれて、通り道だからと途中まで道案内までしてくれた。
その時はそれだけだったけれど、なんと後日、仕事帰りに寄ったケーキが美味しいと話題のお店で彼と再び会ったのだ。それから意気投合し、あれやこれや色々あったけれど、付き合うことになった。
付き合い始めたのは、二年前。
私が二十九歳、彼が二十五歳の時だった。
ベージュのソファーに座りながら雑誌を開いた。
『プライベートでは自分から甘えたりはしない、絶対に』と書かれた文章と共に髪をかきあげながら顎をクイッと上げ、読者を見下ろす感じの彼の写真が載っているページを眺めていた。
雑誌の中の彼、本当に誰も寄せつけない雰囲気だしてるなぁ。
今目の前にいるリアルの彼をチラ見した。
彼と半同棲している状態の、今私が住んでいるマンションは1LDK。対面キッチンだからケーキを作っている彼の顔がはっきりと見える。
微笑みながら作っていて楽しそうだ。
みんな寄ってきそうだなぁ。
少し経つと、オーブンレンジの音がチンとした。ケーキのスポンジが焼けたらしい。食欲をそそる匂いが部屋全体に充満している。
「今スポンジ冷ましてるから、そしたら生クリームとイチゴを乗せて……」と言いながら彼が私の横に座り、甘えてくるように肩に優しくよりかかってきた。
「雑誌の言葉と正反対のことしてるね」
白いソファテーブルに置いてある雑誌に視線をやると、彼の視線もついてきた。
さっきまで読んでいた彼が載っている雑誌。
「あぁ、でも甘えるのは、萌ちゃんだけだから」
そう言いながら彼は上目遣いで私の顔をじっと見てきた。
彼が出演していた番組の録画。それを一緒に眺めていると「そろそろスポンジ冷めてきたかな」と彼は立ち上がった。私もなんとなくついて行く。すでに泡立ててあった生クリームをスポンジに乗せ、イチゴも飾り付けてケーキは完成した。ものすごく手際がよくて綺麗に飾り付けていた。
ソファテーブルの上にケーキを置き、ふたり並んで座ると彼がケーキを切り分けた。
「いただきます!」
ケーキを頬張った彼は満面な笑みを見せてくれた。
ケーキが似合う、ホワイトエンジェル。
表ではすごくクールなイメージの彼。
私だけが知っている、彼の甘い姿。
私は美味しそうにケーキを食べている、彼を見つめた。
こんなにも素敵な彼。
この先、私たちはどうなるのだろう。
ずっとこれからも、翔くんの幸せそうな姿を、一番近くで見続けていたいな――。


