君の隣は誰にも譲れない

王子様のような人

 
 工場から外へ出ると、事務棟の出口の前に一人の男性がいた。

 電話をしているのだが、何というか、その立ち姿だけで絵になるような人だった。遠目にもわかる高そうなスーツに磨かれた靴。私の周辺では見ない人種だとすぐに思った。

 小雨が降ってきていた。私は傘を出していたら、その人はそれまで静かに話していたのに、急に声が上がった。

「おい、柴田。いくらなんでも何時に着くかわからないっていい加減にしてくれよ。まあ、お前が来なくてもずっとここにいるわけにはいかない。次のアポはひとりで構わないだろ。駅に近かったよな、確か……」

 もしかして、お迎えの車がくるのを待っている?まあ、そうだよね、見るからにそういう部下がいる立場の人って感じだもんね。

 私は傘を差すと、彼の近くまで歩いて行った。彼は相変わらず何か話していたが、目の前に私が来てびっくりしている。

「……あの。車がなくてお困りですか?よろしければどこか近くまででしたらお送りしますよ」

 携帯電話を持ったまま、こちらをじっと見た彼は、電話に向かってひとこと、もういい、何とかすると言うと切った。

「ああ、すみません。道路が渋滞しているようでここにくるまで何分かかるか読めないようで……」

「どこまでお送りしたら?」
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