水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 まだ引きこもりの生活が抜けきれていないのか、海里が来場客や従業員に姿を見せるのは稀だ。真央は以外の人間がショーに出演してくれとお願いした所で、頷くはずもない。



「そうだな」

「じゃあ、どうして……」

「真央がこの巨大水槽で泳ぎたいと言っていたのは、ただの願望ではないと思い、調べたんだ。そこで、マーメイドスイミングのことを知った」

 海里はマーメイドスイミング協会に問い合せたらしい。川端真央の紹介だと告げれば、マーメイドスイミングの講習会に度々足を運んでいたと教えて貰えた。

(それって私の個人情報だよね……?)

 マーメイドスイミング協会の個人情報管理に不安を抱きながら、真央は大人しく海里の言葉を聞き続ける。

 海里は真央よりも先に資格を取得し、会長に頼み込んで自身の存在を秘匿するように告げた。

 真央には海里が、自分で打ち明けたかったからだ。

 この水槽で真央が泳ぐ時──マーマンとして、真央の隣で泳いで驚かせようとしたらしい。

 それだけ聞けばいい話だが、その話が実現するまでの間に、想定外の出来事が起きた。

 それが両親の死と、里海水族館の買収騒ぎだ。

「ずっと告白のタイミングを窺っていたんだが……まさか、このような形で話をすることになるとは思いもしなかった。真央は、びっくり箱のようだな」

「え、あ、うん……。海里がマーマンなら、ショーは……」

「真央が俺と共に泳ぎたいと言うのならば、考えてやる」

「一緒に泳ぎたい!」



 真央は元気よく返事をした。

 すっかり足の痺れが取れた真央は、元気いっぱいにフィッシュテイルとモノフィンを上下に動かすと、フィッシュテイルとモノフィンを外した海里に抱きつく。



「海里、私と一緒に人魚として、この巨大水槽で泳ごう!」

「……ああ」



 そうしてマーメイドスイミング協会の公認マーメイド10人が一堂に会するショーが、開催されることになった。


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