水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 クラウドファンディングはわずか3分で目標金額を達成――つまり、ショー関連チケットの販売コースがすべて完売した。購入できなかった人々からの問い合わせを受けた海里は、急遽クラウドファンディングのコースを増やそうとしたのだが、どうやらクラウドファンディングは一度開催すると新たにコースを増やせないらしい。

 仕方なく外部のシステムを使い、当日有料のストリーミング配信を導入することになった。



「生配信でマーメイドスイミングの公演を配信かぁ……トラブルがあっても一切対応できないよね。私と海里はショーの出演者なわけで、碧さん達はいるかとペンギン達のショー準備で手一杯。カメラを任せられる人員が不足しているような……?」

「一人だけ心当たりがある」

「えっ?」



 海里の心当たりとやらが誰なのか。真央が問いかければ、ある人物の名前を出された真央は納得した。そうだ、その手があったか。そうと決まれば早速お願いしに行こうと、真央は彼女の元へ飛んでいった。



「紫京院さん!カメラの再生ボタンと停止ボタンを押すだけの簡単な作業をお願いします!」

「カメラの再生ボタンと停止ボタンを押すのは業務外です。お引取りください」

「ええーそんなぁ。ねっ?紫京院さん!このとーり!手が開いている人がいないの!」

「海里さんはいつだって手が開いているのでしょう。なぜあたしが……」

「実は、海里は今回手が開いていなくて……」



 海里がマーメイドスイミングのショーに出演するといえば、紫京院は驚いていた。当然だ。海里はあくまでマーメイドスイミングの観客側であり、出演者側など思いもしない。再生ボタンと停止ボタンを押すだけの簡単なお仕事を渋々了承した紫京院に、真央は飛びついた。



「借金完済確定おめでとー!」



 マーメイドスイミングの協会公認マーメイド達の卒業公演を目前に控えた海里と真央は、最後の借金を返済目標金額に達成した売上を確認すると両手を合わせてハイタッチした。



「喜ぶのはまだ早い。これはスターラインだ」

「そうだね。でも、嬉しいよ。100億もあったのに……。みんなのお陰で、借金が完済できたんだもん。誇っていいことだよ!」

「……そうだな。ありがとう、真央」

「うん!これからもよろしくね、海里!」

「……ああ」



 当初の目標が達成できたならば、あとはもう二度と、借金を負うことがないように黒字を増やしていくだけだ。

 真央と海里は借金完済を祝うと、これからが踏ん張りどころだと気合を入れた。

< 129 / 148 >

この作品をシェア

pagetop