水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
(幸せになれるかは、別の問題だよね……?)
海里の言葉が何を根拠にした言葉なのか分からぬまま、真央はなんでもいいかと海里に飛びついた。
「海里!」
「う、わ……っ!」
パシャリと水が跳ね、二人は抱きしめあったまま水槽へ沈む。
両足がフィッシュテイルの中に収納された状態で深くまで沈めば、命の危険もある。中枢まで沈んだあたりで身体を離せば、海里は真央の手を取り、向き合った。
(回れってことかな……)
巨大水槽の中で手を取り合い、フィッシュテイルをくるくると回しせば、海里もまた身体を回転させてから、手を引っ張る。まるで水中で社交ダンスを踊っているかのように。
微笑み合いながら、思う存分巨大水槽の中で泳ぎ回った。
(夢みたい。水槽の中で、海里と一緒に泳げるなんて……)
真央は海の中で海里と身体を密着し合い、見つめ合う。
陸の上では王子様の海里も、水槽の中に飛び込めば、瞬く間にマーマンへ変身する。真央が人間の女性から、フィッシュテイルとモノフィンを身につけることで、マーメイドへ変身するように……。
(私の大好きな人。このまま、水槽の中で暮らせたらいいのになぁ……)
夢はいつか、醒めるものだ。
真央は人間で、海里は陸の王子様。ずっと水槽の中で暮らしていくのは難しい。
(これからは、いつでも海里が水槽の中で……マーマンとして泳ぐ姿を見られるんだよね……?)
真央は海里と水槽の中で泳ぐ姿を思い描くたび、泣きそうになっていた日々を思い出しては、フィッシュテイルを動かして水槽の中を揺蕩う。
水槽の中で海里と溺れ死ぬのは、いつでもできる。陸の上で辛く悲しいことがあったのなら、いつでも水槽の中へ戻ってくればいいだけだ。
(私達は人間として、生きていく)
マーメイドとマーマンに変身するのは、3分あれば充分だから。
海里と手を取り合って陸で暮らすと決めた真央は、思いっきり海里と水槽の中を泳いで満足したのか、水槽の外へ出ようとハンドサインで海里に意思表示をした。
「はーっ!楽しかったー!」
水から上がり、身支度を整えた真央は水着姿のまま立ち上がると背伸びをする。
海里もまた水に上がって上半身にはパーカーを羽織り、床に座り込む。
引きこもり生活が長かったお陰か、海里は疲れているようだ。泳ぎ慣れている真央のペースでは、しゃぎすぎたらしい。