水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「海里、大丈夫?ごめんね、海里と泳げたのが嬉しくて……」

「……大丈夫だよ、真央。少し休憩したら、すぐによくなるから」

「海里……」


 借金返済の最中は激務に耐えきれず、真央の方が体調を崩すことが多かった。

 海里が体調を崩している姿を見る機会はあまりなく、真央は介抱ができると嬉しそうににこにこしている。海里は真央に迷惑を掛けていると申し訳なさそうに目を伏せた。


「俺の方こそ。迷惑かけてごめん」

「どうして海里が謝るの?迷惑なんて思ってないよ!借金は完済できたし、あとはもうババーンと利益を出しまくって、今度は急成長を遂げたボロ儲け水族館としてテレビへ取り上げられるくらいに成長しないと!」

「利益を上げれば上げるだけ莫大な税金を取られるし、いうほどボロ儲けなんてできないよ」

「またそうやって弱気になる!海里はもっと自信持っていいんだからね!」

「……俺には誇れるようなものはなにもない。全部、俺の人魚が頑張ってくれたお陰だよ」

「何も持っていないって言うけど、川越海里として生きていていたからこそ、私は頑張れたの。これからも、たくさんたくさん頑張るから!おじいちゃんになるまで、生きなきゃだめだからね!」

「真央は手厳しいなぁ……」


 恋に破れた人魚姫は、泡になって消えてしまう。

 恋を叶えた真央が泡になって消えることはないけれど。寂しそうに、笑う海里が消えてしまうのではないかと恐れた真央は、末永く生き続けるようにと念押しをした。


(海里には、自ら命を絶つような気力さえも残っていなかった)


 13年前の明るさを取り戻した海里は、真央を優しい瞳で見つめている。

 生気のない瞳で真央を見つめていた1年前とは大違いだ。

 だからこそ、真央は怖かった。

 何もかもがうまく行ったことにおそれなして、海里が衝動的に死を選んでしまうのではないかと。


(……大丈夫、だよね。もし、駄目だったとしても……。私が目を光らせていればいい話だもん)


 真央と海里がプロポーズを了承したと知った従業員たちは、結婚式はいつだと二人を急かしている。

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