水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

人魚たちと共に

「海里、海だよー!」

 真央は海を前にして、大声で叫んだ。

 24時間365日、水族館の外へ出ることなく缶詰になっていた海里は、借金完済を気に外へ出るようになった。

 海里はあまり、水族館の外へ出るのが好きではないらしい。

 13年前のように真央を優しく見守り始めた海里は、水族館から一方外に出ると、不安そうに目を白黒させては周りの視線を気にしているようだった。

(海里が少しでも、人目を気にしなくなりますように)

 そう願った真央は、人目を気にすることなく騒いで遊べるのは海しかないと仕事を休み、海里をマーメイドスイミング協会が管理しているプライベートビーチへ連れ出したのだ。

 海は人を、開放的な気分にさせる。

 ビキニスタイルの真央は、海里から預かったパーカーで上半身を覆い隠しながら、大はしゃぎしていた。

「真央、前。しっかり閉めて」

「ええー。大丈夫だよ?ここはプライベートビーチだもん!一般人が入り込むようなら、不法侵入で訴えればいいんだから!」

 真央がはしゃいで飛び跳ねるたびに、たわわに実った2つの果実が揺れる。

 プライベートビーチと称すれば聞こえはいいが、海の一角が私有地になっているだけだ。

 少し距離はあるが、芋洗い状態で海を楽しむ一般人の姿を確認できる。一般人のカメラが真央の身体に向けられていると気づいた海里は、言うことを聞かない真央を抱きしめ、カメラに胸元が映らないように対策をした。

「わわっ。海里……?」

「ここは水槽の中ではなくて、誰もが利用可能な海だよ。安全な場所ではないから、無防備にはならないで」

「……安全なのに……」

 真央は突然抱きしめてきた海里に小さな声で文句を言うと、彼の背中へ手を回した。

 真央は里海水族館で働く前、マーメイドスイミング協会に所属するインストラクターだった。このプライベートビーチで1日マーメイド体験をしたいと集まった人々に、マーメイドスイミングの楽しさを教えている。

 この海でトラブルが起きたことなど、一度もない。

 真央は海里が心配性だと結論づけると、一般客が海で遊ぶ姿を恨めしそうに睨みつける海里にお伺いを立てた。

「海里。今日は、泳ぐのやめる?」

「そうだね。変質者に真央の姿を撮影されたくないから、今日はやめようか」

「せっかく海に来たんだよ!?塩の香りだけじゃなくて、手足の感覚でも海を楽しむべきだよ!」

「足だけ付けて、波に攫われでもしたら……」

「その時は海里が、私を助けてくれるでしょ?」

 真央は海里の背中へ回した手を離すと、海里の手を波打ち際まで引っ張っていく。
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