水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 真央はキャーキャー声にならない悲鳴を上げながら、パシャパシャと海水をかき分け波が踝まで当たる場所へ海里を誘った。

「海なんて、何年ぶりだろう……」

「これからは、いつだって一緒に来られるよ!」

「そう、だね」

 真央は水槽の中よりも海で泳ぎたいのか、押しては返す波が踝へ当たるたびに、楽しそうな声を上げている。

 ぼんやりと楽しそうな真央の姿を見た海里は、マーメイドの姿で海を泳ぐ真央の姿を妄想したのだろう。口元か綻ぶのを、止められなかったようだ。

「海里、どうしたの?」

「真央は水槽の中で泳いでいる姿が一番かわいらしいけど……。海で泳いでいる姿も、かわいいなと思った……」

「海里。それは私が海で泳いでいる姿を見てから、伝えなきゃ駄目なやつだよ!」

 真央は海里に海で泳ごうと再び懇願したが、やはり一般客の目が気になるのだろう。押し問答の末に勝利した海里は、海から上がるように提案し、マーメイドスイミング協会へ顔を出すことにした。

「あれ?みんな集まってるの?」

「平日休みの、悠々自適組はいないけどね」

 マーメイドスイミング協会の本部では、土日休みのマーメイドとマーマンがソファに座って雑談をしていた。そこには妹真理亜の姿もあり、海里の姿を見ると控えめに頭を下げる。

「あ……館長さん……。いつもお姉ちゃんが、お世話になっています……」

「こちらこそ。真央にはいつも、お世話になりっぱなしだ。君から姉を奪ってしまって、ごめんね」

「──誰だよ、お前」

「まぁ、驚いた。それが本来の姿?」

「詐欺師じゃん……」

「お、横暴よりはいいですから…」

 真央はマーメイドスイミング協会の面々が海里に辛辣な言葉を投げかけたことにより、毒気の抜けた海里を仲間たちが目にするのは今日が始めてだったと気づく。

 真央とっては今までの海里がおかしかったとしか思えないため、指摘を受けた真央はぽかんと口を開け、海里の隣で呆けていた。

「海里だよ?」

「そりゃ、館長なのは間違いないだろうけどさ……」

「外見は館長さんだけど、ねぇ?」

「中身が好青年だったなんて、聞いてないわよ」

「闇落ちって怖いわねえ」

「この場合は光落ちだろ」

 真央は仲間たちの言葉がよくわからず、首を傾げている。

 海里は心当たりがあるのか、申し訳無さそうに頭を下げた。
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