水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「お姉ちゃん。休日出勤、やめなよ」

「真里亜は心配性だなぁ。全然平気!今日もお姉ちゃんは元気いっぱいです!真里亜だって、休みなく毎日働いてて身体、辛いでしょ?ごめんね、付き合わせて……」

「わたしは15時に帰れるからいいけど……。お姉ちゃん、7月からこの3ヶ月間ずっと働き詰めだから……。ショー中に溺死なんてことになれば、借金返済どころの話じゃないよ」

「大丈夫、大丈夫!」

「だめ。休んで、お姉ちゃん」



 見かねた妹にかなり強く仕事を休めと止められたが、無責任に仕事を投げ出す真央ではない。

 休日を返上して働き続けること100日後。事件が起こったのは、その日の夜だった。



(疲れたな……。私、なんのために働いているんだっけ……)



 脳が休息を求めている。自主練も兼ね閉館後、マーメイドスイミングの準備をした真央は巨大水槽に身体を投げ出した。

 ザバリと水を跳ねる音を出しながら、真央は水の中に身体を預ける。

 目を瞑ったら、このまま寝てしまいそうなくらいの状況下に置かれていた真央は、水槽のガラス越しに海里を探した。



(海里……?)



 滲む視界の中。よく目を凝らすと、海里は客席に座ってぼんやりと水槽を眺めているように見える。これはいつものことだからいい。けれど今日は、いつもと違う変化があった。



(なんで……?)



 巨大水槽の前で、海里と紫京院が見つめ合っている。



 その光景を目にした真央は疲れや眠気が一気に吹き飛んだ。勢いよく上に向かって泳ぎ始めると、水槽から強引に床へ転がり、フィッシュテイルとモノフィンを剥ぎ取る。

 手に持ったまま大急ぎで螺旋階段を駆け下りた。螺旋階段や床が水濡れするなんて、構っている場合ではない。

 約3ヶ月働き詰めだった真央は、感情のコントロールができる状態ではなく──二人の姿を目にした真央は、大声で海里を呼んだ。



「……海里!」

「あの人が手に入らないのなら……あなたでも構いません」

「紫京院さん……?」

 慌てて水槽から飛び出てきた真央には、海里と紫京院がどんなやり取りをしていたのかよくわからない。

 海里か紫京院から話を聞くことでしか状況を把握できないと考えた真央は、真っ先に海里の様子を窺った。

 海里はぼんやりと水槽を見つめ、愛しい人魚の姿を探している。
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