水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 満員のお客さん達に、マーメイドが水槽の中で溺死する姿を見せるわけにはいかない。

 真央は何があっても、水槽の中で命に関わる事故を起こすわけにはいかなかった。


「もちろん、無理をするのは私だけって決めてるよ!体調が悪いマーメイドには、ちゃんと休むように伝えてあるし……代わりの子たちも2人くらいなら待機して貰っているから」

「あなたの代わりができるマーメイドは、妹さん以外にも用意しておくべきではないですか」

「うーん……。マーメイドスイミングショーのセンターで泳ぐのは……。他のマーメイドには任せられないから、難しいかな」

 真央と真里亜の姉妹は、マーメイドスイミングの本場、ハワイの海で縦横無尽に泳ぎ回っていたことがある。

 日本のプールや海しか知らない他のマーメイドとは、身体の使い方が異なるのだ。

 本場のマーメイドが泳ぐ姿を一度目にしたら、他のマーメイドが代わりを努めた所で、格落ち感は否めない。

 真央はマーメイドスイミング協会の仲間たちに、いずれは手を引く約束上で協力してもらっている。

 真央と真里亜がセンターで泳ぎ、マーメイドスイミング協会の選ばれしマーメイド達と共に繰り広げるショーが1年間限定であるからこそ、抽選で当選したものにしか観覧券が得られないほどに観覧券が売れているのだ。

 目玉がマーメイドスイミングショーしかない今角落ちのショーを見せられるのと、海の仲間達が繰り広げる別のショーがある時に見せられるのとでは、観客の印象は大きく異なる。

 マーメイドスイミング協会の仲間達と一緒に水槽の中を泳ぎ回っている真央は、観覧券を手にした観客へ、角落ちのショーを見せるわけには行かなかった。

「妹は良くて、他の人間は駄目なのですか」

「私と妹は、本場で特別な訓練を積んでいるんです!観覧席のお客さんががっかりして、悪評を書き込んだりなんかしたら……里海水族館の名に、傷がついてしまう。それは避けなきゃならないので……」

「あなたは……周りをよく見ていないようで、見ているのですね」

「んん?」



 謎掛けのような言葉に、真央は首を傾げる。紫京院はいつ見ても不機嫌そうだ。とてもじゃないが、真央とは仲良くなどなれそうになかった。
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