水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
「気前の良さ、明るく、向上心があり、周りを巻き込む行動力まで兼ね備えた完璧超人……。あなたとあたしは、真逆です」

「それって褒めてる?」

「貶しているように聞こえますか」

「えっと……ありがとう?」

「どういたしまして……」

 真央は紫京院から褒められるとは思わず、首を傾げながらお礼を伝える。

 不機嫌そうな彼女は渋々口を開いているようにしか見えないのだが、声だけ聞けば、和やかに会話が成立しているように見えるだろう。

(紫京院さんと、仲良くなるチャンスだ!)

 真央はこのチャンスを、逃すことなどない。

 真央は紫京院の言葉を反芻し、問いかけた。


「紫京院さんは、向上心がないの?」

「見ていればわかるでしょう。あたしは事なかれ主義です。面倒なことはしません。あなたのように、自ら率先して手を上げ、周りを巻き込んで大騒ぎするような野蛮人ではないのですよ」

「でも、愛する人を手に入れる為に海里の監視役に、名乗りを上げたんだよね?」

「……ええ」

「私は紫京院さんが羨ましいなぁ」

「……羨ましい?あたしが?」



 彼女は真央の言葉が理解できないらしい。彼女はサンタ服に着替えさせた鮫のぬいぐるみを手に持ち、ガブガブと八重歯で真央の腕を攻撃してくる。

 ぬいぐるみなので痛くはないが、鮫の牙によって腕を食われた真央は、オーバーリアクション気味に棒読みで叫ぶ。

「くーわーれたー」

「理由を述べなさい」

「はぁい。紫京院さんは、お金持ちでしょ?金銭は心のゆとりだって、聞いたことがあるよ。私は貧乏だから心にゆとりがないけど……紫京院さんは、お金持ちだからゆとりがある」

「……考え方が独特すぎて、納得しかねます」

「私と比べて、紫京院さんが自分はだめな人間だって思い込む必要はないってこと!人間はまったく同じ存在にはなれないんだよ。だって、人間だもん。みんな違ってみんないい。多様性を受け入れないと」

「……受け入れられようが、受け入れられまいが。あたしはあなたと、仲良くする気にはなれません」

「人の個性を受け入れるかどうかと、仲良くなるかどうかは別の話です!別けて考えないと!」

「……海里さんは渡さないと、あたしに叫んだ女の言葉とは思えませんね」

「紫京院さん?声が小さくて聞こえなかった。なにー?」

「いえ。何も」

 紫京院は嫌そうに顔を顰めながら、胸の前で腕を組むと、ぬいぐるみで攻撃するをやめた。

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