水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

水族館の集客をもっと増やすために

 12月中旬。

 真央は寒さを物ともせず、いつも通り水槽の水にちゃぽんと音を立て沈み、観客を魅了していた。


 真冬に冷たい水の中へ沈み、心臓発作を起こしては堪らない。海里は温水プールのように水を温めるべきだと真央達演者の体調を心配していたが、温水を巡回させるのだってタダではないのだ。

 何よりも、温水にするとショーの今や主役となりつつある亀が出演できない。上演前と上演後、身体を温めることを徹底することになった。


 亀と言えば。真央と仲のいい亀は、気がついたらウミガメと里海水族館の名前を文字ってウミちゃんとファンの間で呼ばれ、大人気になってしまった。

 マーメイドスイミングの公演が軌道に乗っても、里海水族館で飼育されている魚たちに魅力がなければ、マーメイドスイミング協会のプロマーメイドとマーマンが引き上げた後、再度経営難に陥った場合、今度こそ這い上がるのは難しくなるだろう。


 魅力ある海の仲間たちを飼育することは、里海水族館の課題でもあった。

 亀がファンたちの間で人気者になったのは、やはり真央では楽しそうに後ろをついて回っては真似して楽しそうに泳いでいるのに、他のマーメイドやマーマンが泳いでいても全く興味を示すことなくマイペースにたゆたっていることだろう。

 真央は土日公演には顔を出さないので、亀とマーメイドの絡みが見たい観客は多少無理してでも平日のチケットを取得する。

 平日はチケットが直前まで余っていることも多いので、真央としても亀の存在はありがたかった。まさに、ウミは里海水族館の救世主だ。


「ウミちゃんグッズ、絶好調じゃん」

「ほんとに。土日のマイペースなふてぶてしさと、平日のマーメイド大好きなギャップがウケてるみたい」

「いるかとシャチにも、頑張って貰わないとね~」

「ペンギン、いるか、シャチは専用のトレーナーつけてあげないと。ショーをやるのは厳しいし、人気者になる道は険しいかなぁ」

「でもさ、うちの水族館って元々ショー系充実してたって親父が言ってたけど?」

「そうだね。私が通ってた当時のメンバーは、川俣さんしかいないから……」


 最愛が里海水族館へ務めるようになったのは、大規模なリストラや人員整理が終わった後らしく、大した情報は得られなかった。

< 82 / 148 >

この作品をシェア

pagetop