水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 海里に真央がいない12年間の事情を話せと脅した所で、傷口を広げるだけだろう。真央は休憩時間に川俣を捕まえ、事情を聞くことにした。


「川俣さんって、昔ここでショーをやっていたメンバーとまだ繋がりありますか」

「それはもちろん……」

「連絡先を教えてもらうか、今の里海水族館を見てほしいので、全員まとめて呼んでくれませんか?」

「真央ちゃん、人魚のショーだけではなく……魚たちのショーも解禁するのかい」

「私達は、あと半年したら本業に戻ります。マーメイドスイミングの公演も、急にやめるようなことはないけど、私一人で引っ張っていく形になると思うんです。里海には目玉となる展示物が少なすぎる。ウミガメのウミちゃんがアイドル化してくれたお陰で地盤はしっかりしてきましたけど、もっと欲張っていい。ペンギンさんたちやいるかさんたちだって、ジャンジャンバリバリ稼いで貰わないと」

「真央ちゃん。今いるペンギンやイルカは訓練を受けていない。トレーナーを呼び戻しても、すぐにショーはできないよ。半年後できるかすらも怪しい……」

「最初から完璧である必要はありません。完璧になるまでは、お金は取らない。無料で観覧できる状態にするんです」

「稼ぐためにショーをするんだろう……?」


 真央の言動は矛盾している。

 稼ぐために芸を覚えさせ、マーメイドスイミング公演のように別途チケット制にして料金を取り、ショーを開催するのを目的としているはずなのだが。

 真央は完璧なショーを披露するまでは無料で観覧できるようにすると告げた。

 まるで謎掛けのような真央の言動に困惑する川俣さんを見かねた真央は、言葉足らずな部分を説明する。


「川俣さんってオーディション番組、見たことありますか?」

「いや、ないよ」

「最初は全然だめな研究生たちが、レッスンを重ねていくうちに、キラキラ輝くトップアイドルに成長していく。ファンは、努力する姿を見るのが好きなんです」


 日本ではまだあまり普及していないようだが、海外ではオーディション番組が花盛りだ。

 参加者たちの成長が無料で見れるともなれば、視聴者たちは喜んで番組を視聴する。


< 83 / 148 >

この作品をシェア

pagetop