水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる
 あっちもこっちもお祭り騒ぎ。社長と妹を連れて会議室に顔を出した時、怒鳴り合っていたらどうしようと一抹の不安を感じながらも、海里の代わりに観客達を退場させた。



「やぁ、人魚姫のお姉さん。今日も俺の人魚姫は美しかった!」

「直接妹に言ってあげてください。喜びますよ」

「それが……俺の人魚姫は恥ずかしがり屋でな……。俺が褒めると、岩の物陰に隠れてしまうんだ……」

「あー……うちの妹は人見知りなので……」

「ぜひとも、お姉さんの力で人魚姫の笑顔を引き出して欲しい!人魚姫の輝く笑顔が引き出せたなら、オレはなんでもしよう!」

「ありがとうございます。それじゃあ、どうぞ」



 真里亜の笑顔を引き出すのと、海里を笑わせるのはどちらが高い難易度を誇るのか……。真央はどっちもどっちだろうなと考えながら、観客が全員退室したのを見計らい、螺旋階段を使って巨大水槽の上部へと出る。



 真里亜は床の上に腰を下ろしていたが、人魚姿のまま、チャポチャポとモノフィンを水につけて弾いている。



「ああ……っ。俺の人魚姫……!なんと美しい……!」

「……っ!?」



 真里亜は近くにおいてあったパーカーを手に取り胸元を隠すと、怯えた表情で感動の涙を流す社長と真央を見つめていた。

 妹の表情は完全に不審者を見る目だ。社長が笑顔を真里亜から引き出したいと願うのは無理もない。



「ごめんね、真里亜。連れてきちゃった」

「お、お姉ちゃん……!」

「真里亜の笑顔を引き出したら、社長さんは私達になんでもしてくれるって。よかったね!貞操の危機は免れたよ!」

「全然よくないからね……!?」

「ん?そーかなぁ。とってもいいことだと思うよ?」

「お姉ちゃん……っ!」

「社長さん、今すぐ笑顔を引き出すのは無理なので、とりあえずこのままうちの館長と条件を擦り合わせて貰って……夜食デートなんてどうですか?」

「もちろんだ!」

「じゃあ、そういうことで。はい、タオルと洋服。上から羽織って、いくよー!」

「わ、お姉ちゃん……っ。勝手に決めないで……っ」



 妹は真央が強引に働きかけないとてこでも動かない。
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