水槽の人魚は、13年越しの愛に溺れる

12年ぶりの笑顔


「おっと。やっと俺のものになったね。人魚姫……」

「ひ……!」

「海里?みんなが見ているから……自重しようね……?」

「……嫌だ。今この場にいるのは、信頼できる仲間達だから、問題ないだろ」

「今はそうでも、いつかはどうなるかわからないよ。ずいぶん長い間、海里と疎遠になっていたわけだし……」

「お前らが収まる所に収まるのなら、祝福してやるよ」

「そう?」

 真里亜が社長に迫られて悲鳴を上げる中、真央と海里は碧と言葉を交わす。

 真央と海里の仲を祝福してくれると告げた碧の言葉に喜んだ真央は、すぐに碧が目を吊り上げて海里を睨みつける瞬間を目にしてしまった。


「ただ、オレたちの前でいちゃついてんのだけは我慢ならねぇ!彼女なしのオレをばかにしてんのか!?」

「真央、俺を見ろ」

「聞こえない振り、すんじゃねーよ!」

「碧さん、抑えて……他のお客さんもいるから……」


 真里亜と社長がじゃれ合っているのが羨ましかったのか、長い間碧を見つめているのが気に食わなかったのだろう。

 海里は真央を背中から抱きしめると、真央の耳元で愛を囁いた。


(精神的に限界なのかな……?)


 海里はよく、人前で真央に愛を囁く。そうした時は大抵、海里が他の男性に嫉妬していたり、真央との関係を見せつけたいときだったような気がする。

 海里を精神的に傷つけるような真似を、するわけにはいかない。

 真央が抵抗する様子もなく受け入れていた姿を見たからだろう。真里亜から口うるさく怒鳴られた。


「せ、セクハラです……!」

「俺の人魚姫は、怒った顔もかわいいな!」

「社長さんもですけど、お姉ちゃんの彼氏さんもです!えっと、彼氏さんでいいんですよね……?」

「疑問形じゃなくていいんだよ!海里は、私の彼氏です!」

「どうも……真央と婚姻を約束している、彼氏だ」

「それが彼女の妹に対する、挨拶の仕方かよ。全然なってねーな。嫌われるぞ」

「結婚の約束をしているけど、借金を完済するまでは大っぴらに言えるような関係じゃないから……お父さんとお母さんには、内緒にしてね」

「お姉ちゃん……」

「そんな可哀想な人を見る目で、見つめないで!?」


 真里亜は社長の手から逃れようとするのは諦めたようだ。

 社長の膝上で、姉を可哀想なものでも見ているかのように見つめていた。

 この視線を受けた真央は、腹部に回っていた海里の腕を両手で掴み退けると、身体を離して仕切り直す。
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