愛しい吐息 ~凛々しい婚約者は彼女を溺甘で支配的な愛にとろけさせる~
 白石花純(しらいしかすみ)の朝はキスから始まる。
「おはよう」
 声をかけるとともに、婚約者の雅が彼女に軽くキスをする。
 寝ぼける花純の鼻腔をコーヒーのいい匂いがくすぐった。
 そこらの男より男前なアルファの女性、桜堂寺雅(おうどうじみやび)が彼女に笑いかける。
 雅がカーテンを開けるとすがすがしい日差しが寝室に降り注いだ。
 花純はベッドから降りると、そのまま雅に抱きついた。
「大好き」
「料理が冷めるよ」
 雅はまた花純にキスをして、ダイニングに行く。
 花純は顔を洗ってからパジャマのままテーブルについた。雅は白シャツにスラックス、エプロンをつけた姿で席について待っていてくれた。
 2人でいただきますをしてから、雅の作った朝食を食べる。
 トーストにスクランブルエッグ、サラダにウィンナー。
「今日もおいしい。幸せ」
「あなたはいつもそうだ」
 くすくすと雅が笑う。
「だって、幸せだもの」
 雅はアルファで花純はオメガだ。出会った瞬間に恋をして、番になった。そのまま同棲して、今は半年後に結婚式を控えている。
「式のことだけど。昨日見せたタキシードでいいの?」
 ドキドキしながら雅に尋ねる。170センチと女性にしては背が高い雅は、顔も中性的で凛々しく、男装がよく似合う。
「花純がいいと思ったものでいいんだよ」
 いつもと同じ返事。いつも「花純の思う通りでいいんだよ」と言われる。
「でも、雅の意見は。私が雅もドレスでって言ったらそうするの?」
「そうだよ」
 迷いなく雅は答える。スカートや女性らしい服装が苦手なくせに。
「君がやりたいようにやってくれたらいいんだ。女性は結婚式に憧れを持っているものだろう? 予算は気にするな。打掛でも白無垢でも。何色のドレスが好き? ピンクも青も、どれも似合いそうだ」
 目を細めて雅が言う。
「そんなに着られないよ」
 全部やったら何回のお色直しが必要になるだろうか。
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