君の世界に触れさせて
「ちょっと、力加減してよ」
「悩みを吹っ飛ばすにはちょうどいいだろ」


 佐伯は明らかに不満そうにしている。


 どうして佐伯が不機嫌なのか、僕にはわからなかった。


「もっと、古賀ちゃんのこと信じてやれよ。栄治のバカ。アホ。弱虫」


 小学生レベルの悪口が並べられた中で、“弱虫”が一番効いた。


 そして佐伯は不満そうにしたまま、僕と反対方向に行ってしまった。


 僕は一人で、目的もなく歩き始める。


 佐伯は古賀のことを信じろと言ったけど、正直、なにを信じればいいのか、わからない。


 古賀が最近、僕のところに来ない。


 これは紛れもない事実で、その理由を考えてしまうのは、当然のことだ。


 それが偶然、悪い方向に向いてしまっただけ。


 でも、今までの古賀の行動パターンから、古賀が僕の過去を知ったくらいで、僕のところに来なくなるわけがないと思い始めた。


 古賀なら、迷いながらも僕に文句を言ってきそうだ。


 僕は自分の頬を叩き、深呼吸して、気持ちをリセットする。


「夏川センパイ」


 今日はどこで写真を撮ろうかと思いながら外廊下に出た矢先、背後から呼びかけられた。


 古賀かもしれないなんて変な期待を抱きながら振り返ると、知らない女子生徒が立っている。
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