君の世界に触れさせて

3




「依澄!」


 声援をかき消すほどの大声で、氷野が古賀を呼ぶ。


 その声をきっかけに古賀は動き、シュートをしようとしていたはずなのに、背後にきた氷野にパスをする。


 氷野が放ったボールは、見事にゴールに吸い込まれた。


 それからすぐに相手ボールとなり、みんな走っている中で、古賀は動かなかった。


 そんな古賀の背に、氷野は手を添える。


 僕からは二人の背中しか見えない。


 なにがあったのか気になって見ていると、古賀は振り向いて、みんなの背を追った。


 僕が気にしすぎただけかもしれないと思い、カメラを構える。


 だけど、僕は古賀の写真が撮れなかった。


 どのシーンの古賀も、苦しそうに見えて仕方なかったから。


 それから任された仕事をこなしながら、古賀の様子を見守り続けた。


 古賀はボールを受け取り、華麗なドリブルをしながら、最後は絶対にシュートを決めなかった。


 絶対、直前に味方にパスを出す。


 身のこなし方からして、古賀は経験者だろうに、どうしてシュートをしないのか。


 古賀がシュートをすれば、きっと今よりも点が取れているはずなのに。
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