君の世界に触れさせて
 そんなことを思いながら見守った試合は、ギリギリで古賀のクラスの勝ちとなった。


 それなのに、戻ってくる古賀の表情があまりにも暗くて、お疲れ様と声をかけることすら躊躇ってしまう。


「古賀さん、代わってくれてありがとう」


 試合中に転けてしまった子が、古賀を呼び止める。


 すると、古賀は笑顔を作った。

 見てて痛々しい笑顔だ。


「ううん。足、大丈夫?」
「歩けるくらいには大丈夫だよ」
「そっか、よかった」


 そして古賀は会話を一方的に終わらせ、体育館を出ていく。


「古賀さんって、ちょっとクールな人なんだね」


 その子は近くにいた、古賀を呼びに来た子に、小声で言った。


 といっても、声援の中でも聞こえる程度の大きさだったから、僕にも聞こえてきた。


「私は、ただの自分勝手な人にしか思えないけどね」


 話しかけられた子は、古賀のことを嫌っているのではないかと思わされる顔で言った。


 ただ、どちらも僕が知っている古賀と一致しない。


 なにがあったのか気になったけど、僕が口を挟むのはおかしい話だとわかっていたから、言えなかった。


 すると、恐らく僕と同じような、もしくはそれ以上の感情を抱いたであろう氷野が、二人に鋭い視線を向けているのに気付いた。


 ケンカが勃発しそうな雰囲気に見えたけど、氷野はただ静かに、怒りを押さえ込んで出入り口に向かう。
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