奴隷の仕返し
 黒いものが緑なす丘陵を埋め尽くしていく。
 周辺国の反乱がおきたのだ。

 旦那さまの日記を読んでいるうちに、この国は長くないことを予期した。
 横暴をふるう王様に、贅沢三昧の王妃に、何も知ろうとしない愚かな《第一王女》に、残酷な心を育ててしまった異母弟妹たち。
 真の味方であった宰相は高齢で力も弱まり、若き貴族たちは王族を腹の中で見下し、やがて見放し、ついに《とき》が来た。
 先の戦争での残党貴族と、国内の貴族が手を組み、王室に反旗を上げたのだ。
 城は三日も持たずに落ちた。
 王都は、石畳をひしめく騎馬隊の轟音に揺らぎ、八方に火の手が上がった。
 旦那さまは、唇の動きだけで喋った。

「姫さま、あれほど逃げろと言いましたのに」
「いいのです、王女として何もしてこなかった私は、国の終焉くらいは見つめなければなりません」

 旦那さまは、苦しむことなく息を引き取った。
 旦那さまの骨のような手を握りながら、最後のときを静かに待っている私は、屋敷をこじ開けて入ってきた兵士らに取り囲まれた。
 甲冑の騎士が、私の腕を引っ張った。
 すらりとした肢体にきらびやかな髪、そしてうるんだ青い目。
 私の奴隷だった。
 いや、今は奴隷ではない、敗戦国の貴族、いや今は戦勝国の貴族として復位し、将軍となっていた。私たちの立場は逆転したのを兵士らの態度で知った。

「奴隷よ、私に仕返しをしにきたのか」

 奴隷はにっこりと笑った。相変わらず神さまを見るような目だった。

「はい、姫さま、これからゆっくりと仕返しさせていただきますわ」

 奴隷は、姿は雄々しい騎士なのに、話し方は私とハンナから学んだために、女口調だ。どことなく滑稽で笑いが漏れた。

「お前は、騎士の格好よりもドレスのほうが似合うわ。しかもぼろぼろのドレスのほうが」
「姫さまのお望みどおりに」

 今、私は敗戦国の元王女として、戦勝国の貴族の屋敷で飼われている。
 ハンナはもう落ちている食べ物を拾ってこない。ちゃんと部屋に届けられた食事を私と元奴隷とともに摂っている。
 そもそも食べ物を粗末にする人はここにはいない。
 私は、仕返しに、私の膝を元奴隷の頭台にされたり、夜は抱き枕にされたり、いろいろとこきつかわれている。
 結婚を申し込まれているが、誰が元奴隷なんぞと結婚するものか。
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