偽装結婚から始まる完璧御曹司の甘すぎる純愛――どうしようもないほど愛してる
「九月に入ってから、不安定な天気が続いてますね」

「ああ、近場の移動でも油断出来ないな」

「結構濡れてしまったようですし、今日は温かい飲み物をお持ちしましょうか?」

 花穂は彼がスーツの肩や袖の水滴を拭い終えたタオルを受けとりながら提案した。

 まだ残暑が厳しい為か、最近の響一のオーダーは決まってアイスコーヒーだ。しかし雨に濡れてしまったのなら、体を温めた方がいいかもしれないと思ったのだ。

 響一は、そうだなと頷く。

「今日は軽く食べて行くつもりなんだ。城崎さんが言う通り温かいスープにするよ」

 会話をしながら、いつもの席に向かう。

 客から人気があるのはテラス席に続く窓際の席だが、響一は背の高いグリーンの影になる奥の席を好む。仕事の関係者と居合わせる可能性があるので、人目に付かない席がいいからだそうだ。

『ときどきは、仕事から離れてひとりの時間が欲しいからね』

 以前、少し疲れた様子で言った彼の言葉だが、花穂はその気持ちが分かるような気がした。

 響一はとにかく目立ち、何かと注目を浴びるタイプの人だ。

 原因の多くは彼の容姿にある。
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