桜ふたたび 後編

ジェイは、ホッとして泣き出しそうな澪の頬にキスして、よく辛抱したと目で頷いた。

澪を日本から脱出させて二週間。会うことも叶わず、声も聞けず、何の説明もなく過ごす日々は不安だっただろう。
こんな状況でなければ、いつまでも抱きしめていてあげるのに。

『どなたかな?』

『MIO Sakura、 私の婚約者です』

[Taisez-vous‼(黙りなさい!)]

マティーが激しく両手でテーブルを叩いた。

フェデーは眉をひそめた。

『どういったお嬢さんだ?』

エルが薄笑いながら答える。

『お耳に入れるのも穢れになりますよ。父方は地方の不動産会社経営。母方は漁師。父親は中堅電気メーカーの支店営業部係長。実に〝平凡な庶民〞です』

フェデーは呆れたように苦笑した。

『話にならんな』

立ち上がるフェディーに、マティーは珍しく怒りの色を浮かべた能面を下向けながら、エルは「無駄な足掻きだったな」とジェイに皮肉な笑みを向けながら、従う。

『私とお前の進退については、今夜もう一度話し合おう。あとで家に来なさい』

『待ってください』

ジェイは出口の前に立ちはだかって、父と対峙した。

『お前にも、彼女がアルフレックスに相応しいかどうか判断できるだろう。
交際には反対せん。しかし、結婚には賛成しかねる』

ジェイはじっと父を見つめたまま、澪をおもむろに自分の前に引き出した。
< 209 / 270 >

この作品をシェア

pagetop