桜ふたたび 後編
ジェイは髪を振り乱し、切羽詰まった形相で叫んだ。

「伏せろ! 伏せるんだ!」

その声は、羽音に消されて澪には届かなかった。

『レオ、もっと下げろ!』

ジェイは絶叫した。

『やめろ! ジェイ』

ウィルが今にも飛び降りそうなジェイの体を必死に引き戻す。

『ニコに任せろ』

「澪~!」

ジェイの悲痛な叫びを残して、ヘリコプターが急旋回した。

追い縋るように振り仰いだ澪の視線の先に、ライフルを構えたキアラの姿があった。

──ああ……。

一瞬、すべての時が止まった。

音のない真空の世界の中で、澪はゆっくりと目を閉じた。

次の瞬間、パーン、と乾いた銃声が、白銀の世界に木霊した。
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