桜ふたたび 後編
ジェイはすべてのAX株を失い、J&Aはわずか半年で解散した。
メンバーはちりぢりになり、それぞれの新しい人生を歩き始めている。
ニコは、シェイク・アブドラが新設したSAMサンフランシスコの一員に。
レオはパリで調査会社を立ち上げ、ウィルは古巣のローファームへ戻った。
そしてリンは、〝素敵な恋愛〞を見つける旅に出た。
『再了(また逢いましょう)』
それが、リンの別れの言葉だった。
失ったものはあまりに大きかった。
だが、最後に得たものは──この世の何ものにも代えがたいものだった。
愛を知り、愛に喜び、愛に悩み、そして苦しんだ。
これからも、さまざまなな困難が待ち受けていることだろう。
それでもこの手を離さずに、互いに慈しみ合いながら、私たちは共に生きてゆく。
たとえどれほど厳しい冬を迎えようとも、守るべき大切なものさえ見失わなければ──必ずまた、春は巡り来る。この桜のように──。
「ジェイ」
振り向くと、春の陽射しのなかで、澪が微笑んでいた。
彼女の肩に手を添え、その小さなお腹にそっと視線を落とし、ジェイは穏やかに笑った。
未来はまだ何ひとつ約束されていない。
けれど、今この瞬間に確かにある命と愛を信じられるかぎり、二人はきっと歩んでいける。
何度でも、どこからでも。──新しい物語を。
ジェイは幸せそうに澪の肩を抱き、ひらひらと舞い落ちる桜吹雪のなかへと、そっと歩を進めていった。
─ 完 ─

