左小指のピンキーリングは素敵な恋を引き寄せる
夏休みにサークルの先輩に大学近くのカフェで週末だけのバイトを紹介してもらった。
ある日の土曜日、少し遅い昼休憩から戻ってくると店内にその音が響いた。
「バシッ」
え?叩いた?
さくらは音のする方を見ると女性が立ち上がり「別れる」と言い残して店から出ていったのだ。
店内にはだいぶお客さんは少なくなっていたが当然みんな振り向き、小声で別れ話だねと言っている人もいた。
遥海くんだ……
バスケ部の白いジャージを着た男性が下を向いてぼーっとしている。
さくらは冷たいおしぼりをテーブルにスっと置いた。
「どうぞ……」
さくらは小さな声で使ってと言った。
遥海くんは長く伸びた髪の毛の間から目がなんとか見えた。
私が見えたのか、顔をあげ「えっと……ありがとう」と言うと上を向きおしぼりを顔にのせてしばらくじっとしていた。
30分経っても動かない遥海くんを見ると頭がカクンとなった。
寝てる?
さすがに何も注文していないお客さんをそのままにはしておけないし、さくらは遥海くんの座っているテーブルに向かい肩を軽くポンポンと叩いた。
「あの……」と小声で声をかけた。
遥海くんはびっくりして頭を起こした。
「ごめんなさい、びっくりしましたよね」
びっくりしたのか軽くハアハアと息をしていた。
「……俺、寝てた?」
「……はい、多分」
「ごめん」と言うとポケットに手をつっこんで何かを探している。
「あれ?財布がない……」
Tシャツにジャージの遥海くんは両方のポケットに手を入れていた。
ポケットは2つしかないし、携帯はテーブルに置いてある。
「あの、決済でもできますよ」
遥海くんは携帯を触ると「充電切れてる……やべっ」
髪をかきあげて私の顔を見た。