ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 それから気付けば更に八年もの月日が流れた、そんな頃。
 鉱山の研究は進み、俺の元に持ち込まれる鉱石も目新しいものが無くなってくる。

“まぁ、鉱石がいまだに出続けているだけでも感謝すべきか”

 集中力がないのか失敗しかしないリリアナは、毎日魔法と向き合っているようだが――

“あれじゃ一生魔法は使いこなせないだろうな”

 魔女の血が薄いんだと思う、と自分の魔法が失敗ばかりすることに理由付けしたようだが、そうではない。
 本人は無自覚のようだが魔法はなんと出会ったときからこの十年間発動し続けているのだ。

 そんな彼女の血が薄いわけがあるはずはなく、なら魔法が失敗する理由はひとつだけ。

 
「興味があるものを見付けれてないんだろうな」

 
 魔法とは願いを叶える力。
 叶えるには強くその一点を願う必要があるが、リリアナはその願いが分散しているのだろう。

 普通は興味のあるものに対して繰り返し魔法を使いその感覚を覚えていくものなのだが、リリアナの場合はその興味の対象が見つからず一点へ集中して願うということが出来ないのだ。

“リリアナの興味の対象が王子だとして”

「他にあってもよさそうなものだが」

 俺だって一番興味を惹かれているのは鉱石だが、鉱脈にも鉱山にも興味を持っている。
 ――まぁ、その三つは同じようなものなのだが。


 だからリリアナにも新しいものが見つかればいい。そんな軽い気持ちで口にしたその呟きをすかさず拾ってきたのはやはりというかなんというか、レベッカだった。

「他って?」
「あー」

 三十六になったレベッカは、相変わらず髪を短く刈り上げたスタイルを維持している。
 ころころ変わる表情も健在だ。

「たいしたことじゃない」
「そっか。で、何?」
「…………」

 にこりと純粋無垢な笑顔を向けられ頬がひきつる。
 どうやら詳しく聞くまで引いてくれる気はないらしい。

 流石に彼女との付き合いも十年以上。
 どうせ折れてくれないのならば、と早々に諦めた俺は渋々話すことにした。

「レベッカだって知ってるだろ。俺たち魔法使いは興味のあることにしか反応しない。魔法を発動するには多かれ少なかれ興味があるものと関連付ける必要があるんだが」
「確か直接じゃなくてもいいんだよね? これでお金稼いで興味のある本を買うぞ! みたいなのでもいいって聞いたことがあるわ」

 ぱっと表情を得意げな表情になったレベッカに小さく吹き出してしまう。
 相変わらず見ていて飽きない同僚から目が離せない。

「要はどこまで集中して願いを絞れるか、なんだ」
「ふんふん」
「だが絞るのは案外難しい。だから興味のあるものと関連付けるのが一番手っ取り早くて確実なんだ。魔法使いの興味の対象は、別にひとつだけってわけでもないからな」
「そうなの!?」

 得意げだった彼女の顔が、今度は驚愕に染まる。
 やはり彼女は面白い。

「俺だって鉱石だけ見てきたわけじゃない」
「いや、テオはどう見ても鉱石一筋じゃん。定住できない魔法使いがここに何年いるのって話だし」
「レベッカもだろ」

 それはただの世間話から派生した程度の、当たり前の事実。
 だから当然いつものように「そうね」なんて笑い飛ばしてくれるものだと思っていたのに。


「私、もうすぐこの国を出るわよ」
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