ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
「どうかしたんですか」
「あ? あぁ」

 家路についた俺を不思議そうに眺めるのはリリアナだ。
 もうすっかり大きくなった彼女をじっと見る。

「おかしな師匠」

 いつもと様子の違う俺に怪訝な顔をしたリリアナは、ぱっと表情を変えてテーブルを指さした。

「じゃーん! 見てください、今日のスープは自信作なんですよ!」
「そうか」
「相変わらず興味なさすぎません!?」

 俺の反応が薄かったことに文句を言った彼女は、さっきまで笑っていたのに一瞬で不満そうな顔になる。
 くるくると変わるその表情を見て思い出すのはやはりレベッカのことだった。


“いなくなるのか”

 新しい鉱脈が見つかった。
 だったら俺も行けばいいんじゃないかなんて考える。

 新しい鉱石も出るかもしれない。
 魔法使いである俺は、興味を持っている鉱石の新情報で抗えないほどの衝動に駆られると思っていたのだが。


“自分のことが理解できないな”

 何故か少しも興味が惹かれず、そんな自分から目を背けるために両目を瞑った。

 ひとつのものに興味を失った魔法使いはどうなるのだろう。
 新しい興味の対象がそのうち見つかるのかもしれないが……


「これが心細いという感情か」

 言い知れぬ暗闇が足元から這い上がり囚われそうな錯覚に陥る。

 明日も仕事だ。
 明日はまだ、レベッカがいる。

 

 理解できない感情に気持ちが沈むが、仕事は順調だった。

 何度も発動した魔法は、今俺の興味が向いていなくてもコツを掴んでいるのか問題なく使えている。

 だが、心が踊るようなことは感じない。

“いつも仕事中にどんなことを考えていたんだったかな”

 淡々と過ぎる時間、淡々とこなす仕事。
 いつもと変わらない日常が何故こんなにも色褪せたのか。
 俺はそのことからも目を背け、目の前のことをこなすことにだけ重きをおいた。
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