ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 私は、この体中に響くような鼓動が彼にまで聞こえていないことをただただ願ったのだった。



「ね、ここって」

 そのまま手を引かれ連れられたのは、この間中を見せて貰えなかったあの廊下の奥の部屋だった。

「もう入っていいってこと?」
「それを決めるのはリリだよ、入る?」

 熱っぽくじっと見つめられ、足がすくんだような気がした。


“入ったら、もう戻れないって言われたのよね”

 もしその『戻れない』というのが、あの路地で口付けていた二人のように『先に進む』という意味だったのなら。

“知りたいから、ここに来たのよ”

 気になる。
 彼らのしていたあの行為がどういうものなのか。
 浅い知識でしか知らなかったその先がどういったものなのか。

 ――メルヴィが、どんな反応を示すのか。


「教えて、メルヴィ」

 私の言葉を聞いたメルヴィがそっとその部屋のドアノブを回す。
 
 開かれた扉の先は、扉の印象の通りこぢんまりとしていて、そして部屋中を暖かい空気が占めていた。


 どこか懐かしく感じるのは何故なのだろう。
 ここには初めて足を踏み入れたはずなのに。
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