ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける
 確かにひとつのことに集中出来ず、願いが分散してしまうせいでまともに発動出来ないのならばそれは効果的だろう。

 エゴとも取れるほどの願望ならば、必然的に願いの力は強くなるから。
 

「でもその願望がなぁ」

“なんでもいいのよ、なんでも。なんか、なんかないかしら……!”

 苦し紛れに人混みへ視線を向けた私は、ふわりと揺れる明るい薄茶色に気が付いた。

 少しだけ襟足が長いのか、うなじをくすぐるように揺れる髪。
 私が見ていることに気付いたのか、少し垂れ目の紺の瞳と目が合って。


 ――何故だろう、懐かしい。


 それはとても不思議な感覚だった。
 互いに動けず、人々は流れるのに私たちの時間だけが止まったような錯覚。

 
“懐かしいって、なんだろう”

 どうしても目が離せない。
 思わずじっと見つめていると、彼が方向を変え人混みから抜け出し私の方へ真っ直ぐ歩いてくる。
 
 近付くことで彼の顔がハッキリと見えるようになり、すっと通った鼻筋も、薄く、けれど艶やかな唇も細いのに案外しっかりと筋肉のついたしなやかな肢体も――

“ど、ドストライクなんですけど!?”
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