ポンコツ魔女は王子様に呪い(魔法)をかける

12.開き直った金持ちは怖い

「う、うぅ……」
「覚悟してって言ったからね」
「なんか違う、そうじゃない……」

 結局メルヴィが選んだ背表紙が紺色の本を何冊か買い、メルヴィいわく街の散策デートへと行くことになったのだが。
 
「リリ、手を繋ごう」

 店外に出てメルヴィが手を差し出す。

“どうしよう”

 何度も繋いだし、私から繋いだこともある。
 もっと言えば、街で初めて会ったときだって繋いだけれど。

“この手、取ってもいいのかしら”

 先ほど不意打ちで口付けられたこともあり、少し警戒心が私の中に芽生えていた。

 別に手くらい今更な気もするし問題はないが、魔法が解けた後彼は記憶を全部残しているのだろうか。
 好きだと思い込んでいた感情だけが消え、勝手に自分の感情を変えた魔女と仲良く手を繋いでいたなんていう記憶だけが残っていたら?

 家具代だけでなく慰謝料の請求なんてされたら――


“なんて”

 はぁ、と小さくため息を吐く。
 慰謝料だとかなんだとか苦しい言い訳だと自分でもわかっていた。

「自然と紺色の本を私も手に取ったなんて、わかりやすすぎるわね」

 自嘲気味にポツリと呟く。
 
< 93 / 231 >

この作品をシェア

pagetop