月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
「はいはい、行きますよ、お父さん」
 母に促され、兄にひっぱられるようにして父は帰宅した。
 華凛は朔とともに残り、浜辺まで足を延ばした。
 平日の昼間、海水浴にもまだ早い今の時期、歩いている人もまばらだ。
 砂浜には入らず、遊歩道のようになっているカラー舗装の道を2人で歩く。
「今日はお疲れ様」
 朔に言うと、彼は苦笑した。
「本当に疲れた。前みたいになったらどうしようかと」
「無事に終わって良かった」
「今度は結納、かな。君の振袖姿が見たい」
「じゃあ冬ね。夏は暑いから」
「長いなあ」
 彼はくすりと笑う。
「2人でいればあっという間よ」
 青い空に、彼の笑顔が眩しく映える。
アルファの運命に翻弄され、彼女は努力を続けてきた。
 だがそれは、運命に支配されていただけなのかもしれなかった。
 きづかないままに中途半端なアルファの自分を呪っていた。
 その呪縛を、彼はやすやすと飲み込んだ。
 乗り越えるのでもなく、無理矢理受け入れるのでもなく。
 ただ、愛だけで、包み込んでくれた。
 波が静かに打ち寄せ、耳に心地よい。
 初めて出会ったときにも潮騒が響いていた。
 助けてくれたときに見た見事な夕焼けの海。
 夜光虫が光る幻想的な海。
 いろいろな海の様は、まるで人生のようにうつろいゆく。
 2人の間に広がるのは、穏やかな海ばかりでないだろう。嵐のような荒れた波が2人の心を押し流そうとすることもあるだろう。
 だが、2人で支えあうことができたら、きっと乗り越えていける。
「愛してる」
 思わずつぶやく。
「俺も」
 朔は華凛を抱きしめた。
 その唇が近付き、華凛は目を閉じる。
 2人の唇が重なった。
 暖かい陽光に照らされ、海はきらきらと輝いていた。

 終
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