月のない夜に青く溺れて ~彼は本能以上の愛で彼女を包む~
「そうね、助けていただいているんだわ」
 その言い方に、父は顔をしかめる。
「社員は助けるばかりじゃない。社長に助けられている。支え合っているんだ。謙遜はいいが、卑屈にはなるな」
 はい、と華凛は答える。目頭が熱くなってきた。
 その父の横で、母があきれたように声を上げた。
「偉そうに。昔、人に助けられてばっかりだ、と落ち込んでたのはどこの誰かしら。人脈を作ったのは功績だ、と慰めたのは誰だったかしら」
「お、おい、お前、そんな昔のことを」
 うろたえる父の姿がおかしくて、華凛はくすっと笑った。
「鳳城と言ったか、あいつの尊大な態度は気に食わん」
 姿勢を直し、急に父は勢いよく言った。
 朔は父との対面で、華凛と初めて会ったときのような傲岸不遜な態度をとっていた。
 今の華凛にはそれが緊張のせいだとわかるのだが、初めて見た人が不快になるのは充分に理解できた。自分もそうだったから。
「本当は良い人なのよ」
 苦笑して言うと、父はふん、と鼻をならした。
「娘の目を疑うわけじゃないんだがな。どうにもいけすかん」
「もう充分怒ったでしょ。今度はちゃんとお相手と話をしてくださいね」
 母は残った紅茶を飲み干し、茶器をお盆にのせてキッチンに向かった。
「お前が幸せになるなら、なんでもいいんだ」
 言い捨てて、父は母を追いかけるようにリビングを出た。
 華凛は目をぬぐう。
 重い荷物が肩から消えたかのように、心は軽かった。
「ありがとう」
 誰もいないリビングで、彼女は呟いた。

 後日、あらためて挨拶の場がセッティングされた。
 海が見えるホテルのレストランだ。
 父の自制と朔の努力の結果もあり、会談はなごやかに終わった。
「いい青年じゃないか」
 ほろ酔いの父は前回とまるで逆のことを言った。
「華凛を頼むぞ。華凛はなあ、小さいころからかわいくて、そりゃあもうかわいくて」
< 44 / 45 >

この作品をシェア

pagetop