ひと晩の交わりで初恋の人の子どもを身ごもったら、実は運命の番で超溺愛されてしまいました~オメガバース~
 不慮の事故により、突然私の両親は揃って亡くなってしまった。

 小学六年生とはいえば、まだまだ親の愛情が欲しい時期だ。

 その頃に私は、天涯孤独となってしまったのである。
 
 アルファとオメガ番うのが当たり前の世界で、ベータとオメガ同士の結婚。
「世間の暗黙の了解」というものを無視して結婚したふたりは、不文律を破ったせいで、私の両親たちはそれぞれ親戚から縁を切られたらしい。

 アルファはアルファ同士、ベータはベータ同士での結婚。
 また、アルファの子どもを百パーセント産むことができるオメガは、アルファの愛人もしくは妾腹となる。
 これが「世間の暗黙の了解」らしい。

 だから、私には身寄りがいない。

 児童養護施設に入る際、役所の職員の人が曖昧に濁しながら教えてくれた。

 両親よりも上の世代の人たちは、第二次性による固定観念や差別があり、一般的には頭が固いと呼ばれる世代だ。

 恥知らずな若夫婦が残した忘れ形見を引き取るなどと申し出る親戚は、当然誰ひとりとして現れず。結局私は、オメガ性でも対応できる施設へ預けられ、幼い頃から現実の厳しさを身に沁みながら生きてきたのである。


 思えばふたりの生前。
 親であるおじいちゃんや、おばあちゃん。おじさんおばさん、いとこなどという人物と会ったどころか、名前や存在すら聞いたことはなかった。
 
 その違和感に気がつきつつも、子どもながらにその理由を聞いてはいけないと察していたのは、「暗黙の了解」に違反していたせいだったのだろう。
 両親の死後、役所の人から事情を聞いたときにその違和感の正体が腑に落ち、生きていくためには不文律を護ることも大切なのだと学んだ。
 しかし私は大恋愛の末、結ばれた両親を憐れむどころか、ともに一生を添い遂げたことに誇りに感じている。

 ――好きな相手と、一生を添い遂げる。

 不文律を守ることは大切だが、いつか私も母と父と同じように大恋愛の末に、愛する人とパートナーになりたい。
 たとえ「暗黙の了解」を破るとしても、真実の愛というものに憧れは募るばかりだった。

 初恋の人で、のちに私が産んだ娘の父親となる人と出逢ってしまったおかげで。
 
 けれど、その相手は私のような天涯孤独の人間が関係を続けてはいけない身分の人であった。

 オメガはアルファの愛人もしくは妾腹にしかなれない。
 いや、そもそも施設育ちの天涯孤独なオメガの私には愛人にすらなれないほど、愛する人は高い身分の人だった。
 どう頑張っても自分の身分を変えられない私は、自分のなかに芽吹いた命を消させる前に、初めて愛した人の前から消えるしか、選択肢はなかったのである。




 
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