教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 エレノアが男の子に優しく語りかけると、男の子は泣きそうになりながらもゆっくりと話してくれた。

「母ちゃんが病気で、教会から聖水を買ったんだ。でも母ちゃんの具合、全然良くならなくて……大聖女様が今、騎士団にいるって聞いて俺……」
「そう……」

 エレノアは男の子の頭を撫でながら、彼の腕の中の瓶に目をやる。

(銀色の光は見えない。ただの水なんじゃないの?)

 オーガストの鑑定ならば微量の魔力も感じ取れるかもしれないが、エレノアの判断は銀色の光があるか無いかだ。

 男の子の母親の病状が回復しないのなら、何の力も無い聖水もどきだ。

「ねえ、その瓶見せてくれる?」
「いいよ……」

 涙をこすりながら、男の子はエレノアの前に瓶を差し出した。

(水そのものに聖女の力を付与すれば良いから……)

 エレノアは少し考えて、瓶に手をかざした。

 瓶の中の水がコポコポと揺れ、銀色の光が放たれると、一気に水に収束する。

「うん、これをもう一度、お母さんに飲ませてみてくれる?」
「……すっげえ」

 聖水もどきを本物にしたエレノアが、男の子を見ると、男の子はキラキラした目で瓶を見つめた。

「聖女様の儀式を遠くから見たことはあるけど、ここまで綺麗じゃなかった!! すっげえ!!」
「そうなの?」

 興奮する男の子に、エレノアは首を傾げた。

(儀式をする聖女って、上位の聖女たちよね? 何が違うのかしら?)

「お姉ちゃん、聖女なの?」

 瞳を輝かせて問う男の子に、エレノアは「しーっ」と唇に指を当てた。

「秘密ね?」
「うん!!」

 男の子はお礼を言うと、その場から走り去って行った。

「よかったんでしょうか?」

 側で見ていたエマが心配そうにエレノアを見た。

「あの子とはこれっきりだし、あの聖水があればお母さんもきっと大丈夫。やっぱり、放っておけないよ」
「……エレノア様らしい」
「あれー? 男の子は?」

 エレノアとエマのやり取りに、第二隊の騎士と揉めていたサミュが割って入って来た。

「サミュ、大丈夫?」
「ああ、あいつら、団長が戻ったら見てろよってんですよ!」
「ザーク様頼り!!」

 得意そうに話すサミュにエレノアとエマは笑いながら帰路についた。

「じゃあ。きっと団長は大丈夫ですから」
「うん。ありがとう、サミュ」

 エレノアは公爵邸まで送ってくれたサミュと挨拶を交わし、別れた。

(ザーク様……どうか無事で……! 私、あなたともう一度話がしたい……!)

 イザークの無事を願うエレノアは、その日、一睡も出来なかった。
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